「踊りに生かされている」―新国立劇場バレエ団プリンシパル・井澤駿が語る『マノン』デ・グリュー役、そして“永遠の課題”としてのバレエ
バレエは、“永遠の課題”
ご自身にとって、バレエとはどんな存在ですか?
バレエは、正解がない世界。探求すればするほど新たな課題が出てきますし、作品によりますが、振付の方向性はあっても、解釈や表現は自由な世界だからこそ“永遠の課題”だと、以前よりずっと感じています。その思いは、今も変わりません。
自分は「バレエに生かされている」
今、踊ることへの思いは?
バレエに「生かされている」感覚があります。
ダンサーは、人に見られる仕事だと感じています。幸せなことに踊りありきの僕がいて、舞台に立って踊ることでお客様に見てもらえる。その循環で、自分が成り立っているんだなと最近改めて思います。
もう好き嫌いの次元ではなく、バレエがあるから自分がある。もし踊りがなかったら、自分はどうなっていたのか想像できません。
今こうして踊れていることはとても幸せなことだと感じています。
2017年よりプリンシパルに昇格。現在の気持ちは?
責任の大きさを感じます。でも、考えすぎると動けなくなるので、まずは自分が努力すること。これまで先輩となるダンサーの方々を見てきて素敵だと感じてきたように、自分もそのようになれたらと思います。
身体も年齢とともに変化するので土台が大事ですし、基礎を見直すことが大切だと感じています。
英国ロイヤル・オペラ・ハウスの経験 ―『ジゼル』ロンドン公演
近年、転機となった経験は?
昨年の『ジゼル』ロンドン公演です。英国ロイヤル・オペラ・ハウスの舞台に立ったとき、初めてと思えるほど、“楽しい”と感じました。
それまでは純粋な喜びを感じるよりも、その日の達成感や無事に終わったという安堵感が先にあり、本番の翌日はすぐに日常のフラットな自分に戻る日々でした。夢より課題が多すぎて、先が見えなくなる瞬間もありました。
でも、あの空間では踊ることそのものが楽しかった。そして、今でもその喜びの感覚が続いています。だからこそ、もっと基礎を磨かなければと強く思いました。
劇場で刺激を受けた理由は?
西洋の文化芸術で、日本人はスタイルも骨格が違います。その差を日本でずっと感じていながらも、実際にあの舞台に立って踊った経験が自分にとっては大きいことでした。
子どもの頃に夢見た憧れの舞台が現実となり、本国で芸術文化の厚みを肌で感じ、その経験はバレエの基礎技術への意識を強くしました。選ばれた人が努力をさらに重ねてある水準に達することでしか、表現できないその先の世界があることを知った気がします。
夢の舞台を経験して刺激をもらい、近づきたいと憧れが増してモチベーションとなり、さらにバレエに真摯に取り組みたいと改めて思うようになりました。
今のタイミングで踊る『マノン』
このタイミングで『マノン』を踊ることについて、お気持ちはいかがですか?
今、『マノン』を、このタイミングで踊れるのは意味があると思っています。
同じ振付家の『ロミオとジュリエット』で怪我のため降板した経験もあるし、前回の『マノン』では一部公演中止になり出演が叶いませんでした。
でも、人生に意味のないことはないと考えたら、過去があるからこそ自分の中に落とし込んだものがあり、蓄積された経験を今に活かせるチャンスだと受け止めています。
『マノン』©Satoshi Yasuda
オフの息抜き
オフの過ごし方は?
オフは身体をケアすることが多く、温泉も好きです。シャワーよりお風呂に入ると踊りやすくなると感じてから、家でも時間があるときは2~3回入っています(笑)。
あと、猫の“マロン”に癒されたり。昨日も僕の布団に入って顔だけ出して寝ていて、驚きました。自分のことを人間だと思っているんじゃないかな(笑)。
ゆっくり時間を過ごすのが好きで、自然を眺めることも大好きです。
(2/2)マノン / デ・グリュー / 井澤駿 / 新国立劇場バレエ団 / 新国立劇場 / バレエ / 英国バレエ / ケネス・マクミラン<Information>
新国立劇場バレエ団
『マノン』 Manon
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
期間:2026年3月19日~3月22日
会場:新国立劇場 オペラパレス
詳細は公式サイト参照
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/manon/
photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki)http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。