上野水香 —《パ・ド・トロワ ― また会う日まで》町田樹・高岸直樹と創る最終章
日本を代表する至宝のバレエダンサー、上野水香。元日本代表でフィギュアスケート界出身の町田樹、東京バレエ団で数多くの舞台で活躍してきた高岸直樹とともに創り上げてきた毎年春の恒例企画、Pas de Trois〈パ・ド・トロワ〉。
2024年の初演、2025年の再演を経て、〈パ・ド・トロワ ― また会う日まで〉はシリーズの最終章として上演される。
会場は東京文化会館 小ホール。改修を控えた劇場で行われる今回の舞台は、シリーズにとっても劇場にとっても、ひとつの節目となる。
〈パ・ド・トロワ〉が生まれたきっかけ
この舞台が始まったきっかけを教えてください。
もともとは東京文化会館 小ホールでのトークイベントがきっかけでした。その時に町田樹さんが「ここで公演をぜひやってみたい」とおっしゃって、本当に翌年それが実現したんです。
今回で3回目になるのですが、あの時の言葉がこうして舞台として続いていることに驚いており、改めて感慨深いです。
©Shoko Matsuhashi
町田樹が語り手に
改めて、町田さんの魅力はどんなところですか?
町田さんの言葉の選び方は本当に独特で面白いんです。初めてご一緒した時、「こんな表現をする人なんだ」と驚きました。語彙が豊富で、話を聞いているだけで新しい視点が見えてきます。バレエとフィギュアスケートの違いを「バレエは音を“粒”で捉えるけれど、スケートは滑るので“線”で捉える」という言葉で表現していたことがとても印象的でした。
今年は、町田さんが映像と踊りを紡ぐ、第1部の語り手として登場するのも楽しみです。
フィギュアスケートの世界で活躍されてきた町田さんは、芸術への視点が深く、〈パ・ド・トロワ〉の作品振付にも独自の世界観があります。これまでもバレエとは異なる角度からのアプローチに触れることで発見があり、自分の身体表現の可能性も広がりました。
踊りと言葉、両方で届ける舞台
今年の〈パ・ド・トロワ〉は、どのような内容になりますか?
映像と実演、そしてクロストークの時間も加わり、より深く楽しんでいただける舞台になると思っています。
踊りは言葉を持たない芸術ですので、お客様は音楽や身体表現から想像して受け取られます。第2部のクロストークでは、その想像に言葉を補い、さまざまな視点から作品の背景や思いを伝えることができます。そうすることで、舞台の意味をより深く感じていただけると思いますし、この公演の価値はそこにもあるのではないかと考えています。
上野水香が踊る、今年の〈パ・ド・トロワ〉
©Shoko Matsuhashi
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《楽興の時》
振付:町田 樹
出演:上野 水香
《楽興の時》はどのような作品ですか?
《楽興の時》は、とても軽快な音楽で、私が小さい頃に踊っていた感覚に近い作品です。
子どもの頃の私はとても小柄で、キューピッドのような可愛らしい役をよく踊っていました。大人のダンサーの中に、小さな子どもの私が、ちょこちょこと動き回っていたんです。当時は自分ではよく分からなかったのですが、周りの方から「かわいい」と言っていただくことが多く、なぜそう言っていただけるのか不思議に思っていました。
今振り返ると、きっと自分の中にある素直な感覚や、無邪気に踊る雰囲気のようなものが自然に出ていたのだと思います。《楽興の時》では、そうした幼い頃の感覚や、純粋に音楽を楽しんで踊る気持ちを思い出しながら表現しています。
《献呈》
振付:町田 樹
出演:上野 水香
《献呈》について教えてください。
町田さんが振り付けてくださる時に、いろいろなお話をしてくださって、この作品にはおぼろげなストーリーがあるんですね。
ただ、それをはっきりと決めてしまうのではなく、背景を感じながら踊る形で振付が進められました。芸術家の思いに寄り添うようなストーリーになっていると感じていますし、私自身も表現しやすい作品です。
そして《献呈》の音楽もとても素敵で、その音楽にのせて表現できることを毎回嬉しく感じています。
《ノクターン17番》
振付:高岸 直樹
出演:上野 水香・高岸 直樹
《ノクターン17番》では、どんな表現をされますか?
この作品は、胡蝶の伝説をテーマに、目に見えない存在を表現しています。
高岸直樹さんが、私の中にあるファンタジー性や無邪気な部分を引き出してくださっているのかもしれません。アナザーワールドのような、夢の世界にいる存在ですね。
昨年この作品を踊ったあと、精霊のような人間ではない役を2度踊る機会があり、その経験もあって今改めて踊るとまた違った感覚が生まれる気がしています。
子どもの頃から自分の中にあった要素で、今回の〈パ・ド・トロワ〉にも表れている作品がいくつかあると思います。先日の公演〈上野水香オン・ステージ〉で「ジゼル」を踊った経験も踏まえて、昨年とは少し違う表現ができるのではないかと思っています。
フィナーレ《トロルドハウゲンの婚礼の日》
振付:高岸 直樹・町田 樹
出演:上野 水香・町田 樹・高岸 直樹
毎回盛り上がる伝説のフィナーレ。今年も大いに期待できそうですね。
フィナーレでは、3人で踊ります。
3人で舞台に立つ時間は、この作品の大きな魅力でもありますし、お客様にも楽しんでいただける部分だと思います。町田さんも踊りますし、ファンの方もきっと期待してくださっていると思うので、恒例の客席降りも含めて楽しみにしていただけたら嬉しいです。どのようなバージョンになるのか、ぜひ楽しみにしていてください。
第2部クロストークのスペシャルゲスト
第2部のクロストーク(5月5日)のゲストに、バレエ界から中村祥子さんが登場されます。
中村祥子さんとは長い付き合いで、同じ舞台にも何度も立ってきました。トークイベントでも以前にご一緒したことがあり、その時もとても盛り上がって、楽しい時間でした。
それからもう数年経っているので、また違う視点でお話できるのではないかと思っています。お互いにそれぞれの人生の道を歩んできましたし、私自身もとても興味があります。
映像作品の魅力
今回の第1部では、実演と映像の13演目ですね。
映像はカメラワークもとても美しく、舞台とはまた違った魅力があります。初めてご覧になる方にも、すでに観たことのある方にも楽しんでいただけると思います。
東京文化会館 小ホールの魅力
小ホールならではの魅力は?
小ホールはコンパクトな空間ですが、その分お客様との距離がとても近いんです。大ホールとは違い、手を伸ばせば届きそうなほどの距離感で、アットホームな空気の中で通じ合える感覚があります。
この2年間〈パ・ド・トロワ〉で、小ホールならではの醍醐味を強く感じました。今回もその魅力を大切に踊りたいと思っています。
「友情」「敬愛」のキーワードで結ばれた〈パ・ド・トロワ〉
©Shoko Matsuhashi
上野さんにとってこの舞台はどのような意味がありますか?
この企画に参加できることが、私にとって大きな楽しみです。関わっている皆さんの言葉や人柄が本当に好きで、この現場にいるだけで心が癒されるような気持ちになります。
そして、この愛着のある〈パ・ド・トロワ〉の温かい空気を、東京文化会館改修前のフィナーレとして会場のお客様とも共有できると思うと、今からとても出演が楽しみです。
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上野水香 / パ・ド・トロワ / 町田樹 / 高岸直樹 / 東京文化会館 / バレエ / 振付 / ダンサー / Pas de Trois, Au Revoir
<Information>
上野の森バレエホリデイ2026特別企画
〈パ・ド・トロワ ― また会う日まで〉
Pas de Trois, Au Revoir
上野水香×町田樹×高岸直樹
会場:東京文化会館 小ホール
公式サイト
https://www.nbs.or.jp/stages/2026/pdt/
photo by 花井智子(Tomoko Hanai)
日本女子大学文学部卒業 ポートレート、舞台を中心に撮影。2020年表参道MIDORISOギャラリーにて個展「LiLee」開催。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。