ミュージカル『ISSA in Paris』テレーズ役・豊原江理佳にインタビュー、フランス革命のまったく新しい女性リーダー像に挑戦
世界中で「HAIKU」として知られる、日本文学の文化である俳句。日本人なら誰もが知る江戸時代の俳人・小林一茶の知られざる「空白の10年」を、現代と過去を交錯させながら大胆かつファンタジックに描くオリジナルミュージカル。
原案・作詞・作曲を手がけるのは、『ナイン』『タイタニック』でトニー賞最優秀作詞作曲賞を2度受賞したモーリー・イェストン。演出を、読売演劇大賞最優秀演出家賞をはじめ名だたる演劇賞を受賞している演出家・藤田俊太郎が担い、主人公である現代のシンガーソングライター・海人(ISSA)役を海宝直人、若き日の小林一茶役を岡宮来夢が演じる。
*敬称略
テレーズ役は、後に俳人として知られる小林一茶・本名の弥太郎がパリで出会う女性。表向きは舞台女優として生きながら、その裏では密かに革命運動にも身を投じている。テレーズ役を演じるのは、豊原江理佳さん。豊原さんは、直近の出演では、『SIX』日本キャスト版ロンドン公演で英国ウエストエンドの劇場に出演して観客を魅了した。これまでの舞台経験の学びも経て、まったく新しい革命の女性リーダー像にチャレンジする思い、そして本作への抱負を伺った。
革命を生きた、柔らかさと強さを合わせ持つ新しい女性リーダー像・テレーズに挑む
演出家の藤田俊太郎さんとは初タッグですが、稽古はどのように進んでいますか(*取材は11月)?
初めてご一緒するのですが、とても柔軟な発想をされる方という印象です。『ISSA in Paris』の世界が、藤田さんの中で大きく広がっているのを感じます。
テレーズ役については「過去のフランス革命ミュージカルのどの女性キャラクターにも当てはまらない、新しいヒロイン像にしたい」という提案をいただきました。
たおやかで柔らかく、しなやかだけれど、強さも持っている——言葉に表現するのは難しいのですが、その共存できればと今は思っています。革命に生きる女性で、こんな柔らかい強さを持つリーダーをどのように描けるのだろうかと、藤田さんと一緒に役を作ることができればと思っています。
劇中で、テレーズは“ナイチンゲール”というコードネームで革命活動をするのですが、その言葉の響きにも、柔らかさと強さが共存するイメージがあります。そのテレーズ役をどう舞台で表現するか、挑戦になると思います。
テレーズ役を演じるにあたり、キャラクターづくりで考えていることはありますか?
役作りは、あまり決めすぎないように心がけることにしました。今年、『SIX』日本キャスト版ロンドン公演に出演した時に、自分の中で新しく発見したことがありました。私は役と向き合っていくうちに「この人は絶対こういう性格に違いない」と決めつけてしまいがちでした。
人間はもっと多面的であり最大限までその可能性を探っていきたい、それも含めて役の可能性を狭めないことが大事だと考えが変わりました。責任感、正義感が強い役でも、それが一面ではありません。今回のテレーズ役でも、その姿勢は大切にしたいと思っています。
これまで私はプリンセス役や、等身大の女の子の役が多く、30人近いカンパニーを率いるリーダー役は初めてなんです。だからこそ新しい挑戦になるし、藤田さんが見つけてくださった可能性に応えたいと思っています。
やはり、それも『SIX』で女性がパワフルな作品に出演したことが、新しい自分の中の経験になったと思います。
モーリー・イェストンの音楽、テレーズ役を歌声で表現したい
モーリー・イェストンが手がける、楽曲の印象はいかがでしょうか。
モーリーさんの楽曲は本当に美しくて…でも同時に、とても難解です。私が歌う曲も、今までにない旋律と構造で、ほとんどが高音域。ソプラノとしての響きを求められます。
でも、ただ高音域のソプラノの歌声にはしたくなくて、柔らかさの中にリーダーとしての芯を通す声を試行錯誤しているところです。いまは研究段階ですが、“ナイチンゲール”のような優しさと強さが同時に感じられる声にしたいですね。ひばりやナイチンゲールがさえずるような柔らかく高い歌声でありながら、テレーズとしての説得力を出せればいいな、というイメージです。
ファンタジーでありながら、「実在したかもしれない」テレーズ
テレーズ役の芝居についてはいかがでしょうか。
お客様にどこで共感していただけるか、という点は大きな課題だと感じています。稽古場でも藤田さんやキャストの皆さんとよく話しているのですが、テレーズは歴史上の人物ではなく、ある意味ファンタジーのキャラクターです。でも、「もしかしたら実際に生きていたかもしれない」「自分がこの状況だったら、こう思うかもしれない」と、お客様が自分自身を投影できる存在にはしたいと思っています。
テレーズは、現実から遠く離れたファンタジーというよりは、「この時代、この場所に本当にいたかもしれない」人物だと思っています。フランス革命という実際に起こった歴史の中で、表向きは舞台女優として生きながら、裏では革命運動にも関わっている。そういう女性がいてもおかしくない、というリアリティがあります。演出の藤田さんとも丁寧に話し合いながら、役を作っていきたいです。
作品に登場する俳人・小林一茶、俳句の文化を、どのように捉えていますか?
正直にいえば、テレビの教育番組などで俳句を知っていた程度の知識でした。資料や本をいただき、勉強しながら理解を深めました。
歌人が貴族特有の文化だった俳句を、庶民に向けて詠んだ一茶さんは、凄い人だなと思います。裕福な境遇ではないからこそ、庶民の生活や自然に寄り添った俳句は、彼自身の人生や体験があり、気持ちが分かるからこそ生まれたものなんだと知りました。だからこそ、現在に生きる私たちも共感でき、この時代まで残り続けたのかと思うと、知るほどに胸がきゅっとなります。
テレーズと若き日の小林一茶である弥太郎、現代の海人(ISSA)とは、どのような関係性で描かれていくのでしょうか?
実際の小林一茶さんに、史実の中で書かれていない10年間があると言われています。その「空白の10年」に、もしフランスに渡り、革命に触れていたら、というのがこの作品の大きな発想です。
「言葉で闘おう」と一茶が思うようになった背景に、フランスの人々やテレーズとの出会いがあったのではないか、という想像を含んでいるのがとても面白いと思っています。一茶の俳句が、庶民や自然に寄り添っている理由にも、繋がっていくように感じます。
テレーズと弥太郎は、同じ時代の時間軸を生きていて、実際に出会い、影響し合う関係です。最終的にはそれぞれ別の道を歩むことになりますが、お互いの人生に確かに影響を残す存在です。
一方で、海人(ISSA)は現代の人物で、時間や場所を超えた構造の中で物語が交差していきます。交わるのか、交わらないのか...そのあたりも、この作品の大きな魅力だと思います。
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『SIX』日本キャスト版ロンドン公演で新たな気づき
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<Information>
ミュージカル『ISSA in Paris』
公式サイト
https://www.umegei.com/issa2026/
期間・会場
(東京公演)2026年1月10日~1月30日 日生劇場
(大阪公演)2026年2月7日~2月15日 梅田芸術劇場メインホール
(愛知公演)2026年2月21日~2月25日 御園座
公式X
@issa_in_paris
photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki)http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
【SNS】 STARRing MAGAZINE
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