アダム・クーパーにインタビュー! 新・演出版『コーラスライン』日本特別公演にザック役で出演
ブロードウェイの歴史に名を刻む、傑作ミュージカル『コーラスライン』。オーディションを受けるダンサーたちが、舞台上で歌と踊りによって自身の人生を語って表現する物語は大ヒットを記録し、トニー賞9部門を受賞した。
1975年初演以来、マイケル・ベネットの演出と振付で上演され続けてきた『コーラスライン』は、2021年に奇跡的に新演出と振付の許可がおり、約50年の時を経て新・演出版を上演。2024年サドラーズ・ウェールズ劇場をはじめ、イギリスで称賛された。その新・演出版が、待望の日本特別公演として今秋上演される。
しかも、大反響のイギリスでの公演に引き続き、世界的スーパースターのアダム・クーパーが日本公演にも出演! 英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルを務めた後も、ダンサー、俳優として活躍を続け、さらに自ら振付や演出・脚本も手がけてキャリアを築いてきた彼は、演じるザック役に多くの共通点を感じるそう。
新・演出版を手がけたニコライ・フォスターとコラボレーションして作品を創り上げた様子や、名曲「One」の今回ならではの場面などをインタビューした。
イギリスの劇場で大喝采、新・演出版『コーラスライン』
新・演出版をイギリスで上演した反応を、ご自身はどのように感じましたか?
観客の皆様には、本当に素晴らしいと評価をいただき、作品が愛されていることを感じました。オリジナルの『コーラスライン』を、ご覧になった方も、観たことがない方も、楽しんでいただける作品だと思います。オリジナル版にリッチー役で出演したキャストの俳優も観劇くださり、「本当に見事で素晴らしかった」と言葉をもらいました。
Photography by Marc Brenner
ザック役との共通点
ザック役に、多くの共通点を感じるそうですね。
似ているところは、まずザックがダンサーから演出家・振付家と自分のキャリアを変えていったところに非常に共感を覚えます。
二つ目は、ザックがパフォーマーの個性を見ている点。技術的なことだけではなく、一人の人間として見るようにすることが、自分にとっても大事なので、共通しているように思います。その人の個性を把握し、人間性を知ることは、演出や振付が容易になることに繋がります。
違う点は、ザックはどちらかというと役柄的に無慈悲で横柄な面もあるように思いますが、私は気遣いがあるのでそこは同じではないと思っています(笑)。
舞台上のダンサーの姿に、自分の過去を重ねることはありましたか?
私はオーディションをほとんど受けたことがなく、それは非常に光栄でラッキーなことです。コンクールに参加した1回程度です(過去に東京で開催されたローザンヌ国際バレエコンクール)。
もし、オーディションを受ける側で何人もの応募者の中にいなければならなかったとしたら、とても嫌だったと思います。たぶん後ろの方に隠れて、緊張で汗びっしょりになっていたのでは、と想像します(笑)。
逆に振付家として考えると、オーディションを受けさせる反対側の立場にいるザック役には、本当に共感できる部分があります。彼の視点から見るオーディションというものは、私にとって馴染みのあるものだと感じています。
Photography by Marc Brenner
Photography by Marc Brenner
演出家ニコライ・フォスターと創り上げた、新たな『コーラスライン』
新・演出版を手がけたニコライ・フォスターさんの優れた手腕、演出家として信頼できる点を教えてください。
彼は、成功している演出家というだけではなく、彼自身が劇場を運営しています。イギリスでオリジナル作品をおそらく一番生み出している、レスターにあるThe Curveです(カーブ・シアター、今回の新・演出版が初演された劇場)。彼は、有名なミュージカルなど、よく知られている作品を違う見せ方の演出で切り取り、新しいエネルギーを観客にもたらしていることが非常に素晴らしいと感じています。
また、彼は共同作業を大事にします。役者たちが自分自身で役をどのように見て感じているのか、どのようにお互いが交わっていくかを大切にしており、今回も話し合って進めることができました。このようにアナログ的に、一緒に創っていくプロセスができたのは非常に良いことでした。新・演出版の振付に挑戦したエレン・ケーンさん、素晴らしいミュージカル・スーパーヴァイザーも、全員でコラボレーションしながら一緒に創り上げた作品という感覚です。
今回の新・演出版では、ザックがダンサーたちと同じ舞台上に立ち、彼らと関わっていきます。どのように役作りを進めましたか?
私は、毎回作品に向き合う時は、自分の演じ方を探るようにしています。今回も、改めて過去に上映された映画版の『コーラスライン』を見返すことはありましたが、影響されることはなく、新たな舞台の演出方法でどのように自身のキャラクターを創っていくかを考えました。
私が好むのは、リラックスした雰囲気の中で沢山話を聞いたり、交流したり、周りの人々と感情的に関わっていくことを自身のキャラクター作りに活かすことです。そこはオリジナルのザック役にはあまりない要素かと思います。自分が普段取り入れている役作りのスタイルを、新演出に活かして反映することで、ザックの新しい一面を見せられるように創り上げました。
アダム・クーパーのソロの踊りに続いて、名ナンバー「One」が歌われる!
新・演出版ならではの「One(ワン)」の場面について、教えてください。
「One」は、一人の人間について語っている歌詞のように見えますが、実際にはグループのアンサンブルで歌われて一体感のある曲です。物語とは別の独立しているような印象があり、オリジナルバージョンでは最後のカーテンコールに向かって、ザックを含めた全員が踊ってお辞儀をするような流れでした。
新・演出版では、何もない舞台上に黄金のシルクハットが降りてきて、ザックが思い出と闘ってそれを封じ込めるように踊り、その先に進んでいくようなイメージを受けます。さらに、「One」の前のそのシーンには、オリジナルバージョンの演出・振付を手がけたマイケル・ベネットがトニー賞を受賞した際のスピーチの声がバックに流れます。
ですから、今回の「One」はザックの頭の中から生まれ、彼の想像を実現するような流れで、私はとても気に入っています。「One」の続くソロの踊りを取り入れたアイデアによって、作品の芝居が続いているように感じられるからです。
歌詞や曲の内容がそれまでの流れと融合するような形で、連続性を持たせるように演出されています。マイケル・ベネットに深く敬意を表して思い出させる演出も加えられ、その一連が魅力的な流れで、最後につながっていき、とても素敵な終わり方だと思います。
新演出の「One」には、どのような表現が込められていると思いますか?
今回の「One」は、ザックが未来を想像しながらオーディションで選ばれた人たちが立っている舞台とはまた違う別の舞台であって、彼の想像している理想が実現しているフィナーレのように思っています。オリジナル版と繋がっているのと同時に、新・演出版のザックがパフォーマンスを終えて次を担う未来の世代へと受け渡すように彼が創り出したダンサーたちが踊り、ザック自身はまた新たな別のキャリアを進む流れが表現されているように感じます。
Photography by Marc Brenner
アダム・クーパーが語る『コーラスライン』のテーマ
『コーラスライン』は、ダンサーに対して非常に愛のある作品という印象。作品のテーマを、どのように感じていますか?
この作品のテーマは、「人間として、夢を追い続けること」がテーマになっているのではないかと思います。どんなに苦しい過去があったとしても、夢を諦めずに追い続ける姿に、人々は魅了されるのではないかと思います。人々がその苦しみを乗り越えながら進む姿に、心を打たれるのではないでしょうか。
乗り越えながら自分の夢を追いかけ、自分自身を成長させる姿を描きながら、幸せを追い求めていくというところが、一つの大きなテーマになっていると思います。そして、それが普遍的なテーマとして描かれているのではないかと思います。
取材エピソードの編集後記は、こちら
日本の観客への思いを語る!
<Information>
ミュージカル『コーラスライン』
日本特別公演
日程・会場:
【日本プレミア公演】
2025年9月8日〜9月22日
東京建物 Brillia HALL
【東京凱旋公演】
2025年10月10日〜10月19日
Theater H
ほか、ツアー公演(大阪・仙台)
公式サイト https://tspnet.co.jp/acl/
原案・振付・演出:マイケル・ベネット
演出 :ニコライ・フォスター
振付:エレン・ケーン
ミュージカル・スーパーヴァイザー:デイヴィッド・シュラブソール
出演:アダム・クーパー ほか
*英語上演/日本語字幕付/生演奏
photo by 近澤幸司 (Koji Chikazawa) https://www.chikazawakoji.com/
高知出身、都内在住のフォトグラファー。静止画、動画、ジャンルを問わず撮影中。
Twitter @p_tosanokoji
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
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