谷の目覚めに身を委ねる——星のや軽井沢 Season of Awakening in Nature
「星のや軽井沢」の棚田ラウンジ
日本の原風景を思わせる景色。浅間山麓の自然に囲まれた山あいの地に位置し、「谷の集落」が広がる。木々や水の流れとともに在るこの場所では、美しい四季が移ろう時間そのものが、滞在の体験になっていく。「星のや軽井沢」で過ごすひとときは、ただ身を置くことで満たされる時間。建築、自然、光——そのすべてが調和し、人間の五感を呼び覚ます。
谷の集落に身を置く
浅間山の麓、野鳥の森に隣接する谷あいに広がる集落。客室は別荘のように点在し、自然に囲まれている。ここでは「泊まる」より、「暮らす」感覚で、心身ともに深い休息が得られる。
ここは「星のや」始まりの地として、前身である大正3年開業の「星野温泉旅館」の頃より根付く自然と共生調和する価値観や文化が、今もなお息づいている。
風景に溶け込む建築
建築は主張するのではなく、自然の風景に溶け込むように設計されている。
低層で抑えられた客室、木材を中心とした素材使い、視線の抜けを意識した配置。どこにいても自然との距離が近く、建築そのものが「背景」となり、調和する。
レセプション
自然を感じる滞在体験
到着後は、客室へ。滞在中は「谷の住人」となる。
部屋は全77室で、「水波」「山路地」「庭路地」それぞれに異なる良さがある。「水波の部屋」では、緩やかに流れる瀬音が聴こえ、夜には水面に水行灯が揺らめき、幻想的な風景が広がる。「山路地の部屋」は木々に囲まれ、窓の外に広がる緑が、滞在に静けさをもたらす。そして庭路地の部屋は、1棟ごとに趣が違う戸建てで、より私的な時間を過ごすことができる。
棚田ラウンジという余白
棚田ラウンジ
棚田を望むラウンジでは、滞在の合間に穏やかな時間が流れる。ここで5月末まで提供されるのが、季節の甘味「春のあんみつ」。
集落に自生する植物に着想を得た一皿で、壇香梅(ダンコウバイ)の枝を用いたムースに、油瀝青(アブラチャン)の寒天を合わせている。仕上げに、ノンアルコール・オーガニックのりんごのシードル「POMMILLON(ポミヨン)」を注ぐスタイル。炭酸の軽やかさと果実の香りが加わり、見た目にも華やかで美しい。
あんみつはシンプルでありながら、一つひとつの素材が際立つ。信州の花豆餡の風味に、黒文字(クロモジ)を思わせるほのかな香りが重なり、軽井沢の春の気配を映し出す。
番茶が添えられ、焙煎による深みとやわらかな余韻が甘味に寄り添う。口に含んだ後の広がりまで含めて、この場所ならではのひとときとなる。
棚田の情景を継ぐ夕食——山の懐石
日本料理 嘉助
メインダイニング「日本料理 嘉助」で供される夕食は、「山の懐石」と題されたコース。季節ごとに内容が替わり、訪れた4月は「春山笑ふ候」をテーマに、山菜や貝、川魚、ジビエといった山や川の恵みで春の気配を表現する仕立てとなっていた。
前菜から椀盛、造里、焼物、鍋、食事、甘味へと続く流れの中で、ほろ苦さや香り、旨みの重なりが広がり、その時季ならではの軽井沢の表情を一皿ごとに映し出していく。料理は約2カ月ごとに更新され、軽井沢の季節を表現する食の体験となる。
日本酒の特別純米吟醸「雁と月と」は、信州・佐久の橘倉酒造と共同醸造。料理に寄り添い、素材の旨みを引き立てる星のや軽井沢オリジナルの一杯。
最初に、春の訪れを告げる山菜の一皿。うるいなどに春貝を合わせ、ほのかな苦味と香ばしさで季節感を表現。続いて「替わり鉢」。冬を越えた食材と春の芽吹きが一皿に。炙ったからすみ、山菜の女王と呼ばれるタラの芽の揚げ物、桜を思わせるあしらいなど、春の宵の情景が浮かぶ。器もまた料理に合わせて選ばれており、視覚的な美しさも印象的だ。お造りは、海と山の2種盛り。海の幸に桜鯛、山の幸に信州の川魚。越冬して脂がのった川魚は弾力と旨みがあり、辛子酢味噌でさっぱりとした後味に。
ジビエは鹿肉。桜の花の麹に一晩漬け込み、柔らかく仕上げている。桜のほのかな香りと鹿肉の甘みが調和し、春らしい余韻を残す一皿。合わせる新じゃがいもの餡が、風味豊かで優しい。焼肴は、清流で育った信州雪鱒を筍の皮の器で味わう。里が春を迎え、芽吹く生命力を表現し、焼き石の余熱によって最後まで温かく味わえる。鍋料理は「山くじら鍋」。猪肉を使用し、この日は春野菜とともに煮込まれ、滋味深い味わいに。
締めくくりは、優しい甘味の桜海老と碓井豆を使ったご飯に、ふき味噌を添えて。水甘味は季節の果物で、最後まで春のテーマ。山菜、川魚、ジビエといった土地の恵みを、繊細な日本料理として昇華させた内容だった。
*春のメニュー
森のレストランで味わう非日常
体験は、森の中のアペリティフから始まる。ロゼ・シャンパーニュやワイン、モクテルと共に。
Amuse-Bouche
稚鮎のフリット、馬肉のタルタルなど、器やプレゼンテーションにも趣向を凝らした当日のアミューズ
ブレストンコート ユカワタン
軽井沢の森の中に佇むレストラン「ブレストンコート ユカワタン」での体験は、アペリティフから始まる。屋外でゆっくりグラスを傾けながら、夜へ移ろうひととき。今の季節は、自然の中で過ごす時間そのものが心地よい。
店内に移ると、信州の食材を主役に据えたコースが展開される。鯉や山菜、姫鱒、アスパラガスなど、土地の恵みを繊細に組み立てた内容だ。メインには、当日メニューに加わった仔鹿のロティを選んだ。食材は仕入れ状況によって変わり、その時々の出会いも楽しみのひとつとなる。
総料理長・祢津一宏シェフが、土地の食材と向き合いながら軽井沢のフレンチを一皿ごとに表現していく。また、コース途中での追加や変更といった柔軟なスタイルに加え、ゲストの好みやその日の気分、体調に寄り添った料理やワインペアリングも魅力だ。この地の風土と丁寧に向き合い、その表現が細部にまで行き届いた一軒で、常連の美食家も多い。
1er「鯉と独活のレゾナンス」フレッシュと燻製、信州の鯉に独活(ウド)のピクルスを重ね、ハーブオイルを加えた鯉のコンソメを注ぐ。ローヌの白ワインと。
Château Mont-Redon Lirac Blanc 2022
2ème「山芹と姫鱒のミ・キュイ」姫鱒を低温で火入れ。アルザスの白ワインと。ライチや花の香りが春の料理に合う。
Domaine Hering Kirchberg de Barr Grand Cru 2022
3ème「アスパラガスの岩塩包み焼き」塩釜で焼き上げ、旬のアスパラガスの瑞々しさと旨味を閉じ込めた逸品。ギリシャのドライな白ワインと。
Domaine Papagiannakos Savatiano Vareli 2023
Poisson「鰆のポワレ ソース・ブールブラン」赤ワイン産地で知られるブルゴーニュの稀少な白ワインは、樽香を感じる、若々しくエレガントな味わい。
Domaine Machard de Gramont Nuits-Saint-Georges “Les Creux Fraîche-Eau” 2023
Viande「仔鹿のロティ ソース・ポワブラード」
南仏・ローヌの家族経営メゾンによる赤ワイン。ジビエをシラー中心のナチュールと。ソースも合う。
Maison Stephan Côte-Rôtie 2017
「仔牛のロティ」には、ブルゴーニュのドメーヌの赤ワインを。Domaine Deveney-Mars Volnay La Cave 2017
Dessert「苺とエストラゴンのアンサンブル」バラやローズ、ラズベリーの味わいがする、オーストリアの貴腐ロゼワインが合う。
*春限定のコース
森のほとりで過ごす夜
ケラ池のほとりに佇む、夜のバー
神秘的な夜の眺め
「森のほとりCafé & Bar」は、森に溶け込むように設けられた静かな空間。BGMに自然の音を感じながら、過ごすことができる。
メニューにはウイスキーや果実酒、季節のカクテルが並び、よもぎのホットカクテルなど、身体に優しいハーブ系の一杯も用意されている。りんご味噌を使ったクラッカーなど、軽井沢らしい食材のフィンガーフードも嬉しい。
夜の空気の中でグラスを傾けていると、森に包まれている感覚がゆっくりと深まっていく。
ライブラリーラウンジの静けさ
ライブラリーラウンジ
レセプションやライブラリーラウンジは、滞在の合間に立ち寄るための集いの拠点。光の入り方や自然の眺めも計算されているように、どこにいても落ち着いた時間が流れる。ライブラリーラウンジには軽井沢にゆかりのある文豪の書籍、写真集なども揃い、ページをめくればこの土地の空気感が重なる。時間帯で変わるドリンクを自由に手に取りながら、ゆったりと過ごす時間もまた、旅の記憶に刻まれる。
「集いの館」にはショップもある
温泉という静かな贅沢
星野温泉 トンボの湯
敷地内から徒歩約5分でアクセスでき、朝には宿泊者専用の時間帯もある「星野温泉 トンボの湯」では、源泉かけ流しの湯を楽しめる。外気を感じ、自然の森と一体化するような露天風呂は、季節によって異なる表情を見せる。
ほか、「星のや軽井沢」には宿泊者専用の温泉「メディテイションバス」もある。
何もしない時間の価値
この滞在で心に残るのは、何かを“する”ことよりも、何も“しない”ことの豊かさだ。水の流れ、風の音、光の変化。それらをただ自然に受け取るだけで、感覚がゆるやかに整っていく。
過ごし方を決めなくても、「谷の集落」の流れに身を委ねることで、そのまま価値ある滞在になっていく。
春から新緑へと移ろう水面
水行灯を灯しながら進む舟、日本の情緒を感じさせる風景
光と闇にくつろぐ「メディテイションバス」や星のやスパ、季節ごとの体験に触れることで、この場所での「ととのい」はさらに深まっていく。
<Information>
星のや軽井沢
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyakaruizawa/
photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki)http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。