メゾ・ソプラノ歌手 脇園彩 歌手としての使命―世界は美しいことを伝えたい
ロッシーニ・サウンドの魅力全開! キャストの声の魅力に酔いしれる、5月開幕の新国立劇場オペラ『セビリアの理髪師』。
ヒロインのロジーナ役を歌うのは、世界の“ロジーナ歌い”として絶賛され、グローバルに活躍するイタリア・ミラノ在住の脇園彩(わきぞの・あや)さん。人生経験、舞台経験を経て改めて再演の役に取り組む思い、ロッシーニの宇宙的に壮大な音楽、歌手としての使命など、脇園さんの広い視点から語るインタビューとなった。内容を前編・後編で送る。
前編記事はこちら
オペラ歌手・脇園彩にインタビュー! 新たな境地で歌う、新国立劇場オペラ『セビリアの理髪師』ヒロインのロジーナ役
歌手としての使命を考える
歌手として人生を送る意味を、考えることはありますか?
アーティストとして考え続けたいし、考えなければいけないと思っています。常に、世界や人々に還元できることを考えるアーティストでありたいと思っています。そして、コロナ禍の時からずっと考えていて、辿り着いた価値観があります。
2021年に、感染症拡大予防対策のもと新国立劇場で『チェネレントラ』(イタリア語でシンデレラ)のオペラを歌わせて頂きました。
『チェネレントラ』の作品テーマは、愛による赦しだと思います。この作品には、終幕のロンド・フィナーレと呼ばれる、非常に愛に溢れたアリアがあります。王子様と結婚することになって、幸せな未来に向けて決意表明するような歌です。「苦しみと涙のうちに生まれたけれど、でも、もう私悲しくないの」という歌詞の内容です。
その時、自分の存在意義や使命を本当に色々考えたので、そのことを感じながら歌ったという意味では特別な作品でした。
そして、聴いていらっしゃるお客様に寄り添いながら、明るい未来へ進もうよという気持ちが届くように歌いました。歌った時に、お一人おひとりと繋がった特別な感覚がありました。お客様が音楽を聴きながら、大変なことばかりじゃなく、世界は美しいかもしれないと思っていただけた感覚を、確かに私は感じたんです。
あの時は、やはり誰もが希望を持つことが難しかった時間でした。でも、世の中大変で問題ばかり見えている中でも、光が見えた気がしました。
だから、どんな曲を歌ったとしても、明日も前を向いてちょっとだけ頑張ってみようというエネルギーをお届けできればと思っています。
人生で大変なことがあると、人間はフィルターがかかったように感じることがあります。問題が起こると、施錠されて閉じられたように世界が汚く映ってしまう時もあると思います。
でも、そのフィルターを外したら、こんなにも世界は美しい、少しだけ光の方を向いて明日も生きてみようよと背中を少しだけ後押しすることができたら幸せに思います。こんな風にできるかも、やれるかもしれないと、まだ可能性や選択肢があることを感じてもらうエネルギーを与えることができるなら、それが私の使命だと感じています。
オペラの魅力
まだオペラをご覧になっていない方に、魅力をお伝えするとしたら?
オペラのストーリは、人生や愛に関する話が多いので、これからどこに向かおうか迷っている方々には、ヒントを与えてくれるかもしれません。普段は足を運ばない場所にフッと足を踏み入れた時に、自分の人生にはなかったエッセンスのようなものを取り入れられる気がします。
オペラの観劇は、上演時間が長く、席も高価です。でも、それだけのラグジュアリーな非日常の空間で得られる価値を受け取る自分に辿り着いたという感覚を、味わっていただけるのではないかと思います。
もし人生で行き詰まって何かを変えたい、物足りない気がすると感じている方が劇場に足を運んで頂けたら、もしかして新しいものが見つかるかもしれません。ご自身が特別な存在だと感じてもらえる、時間と空間を提供できる場所です!
脇園彩さんの夢は?
穏やかな幸せが欲しい、そこに辿り着くことができればいいなと思います。以前は、夢というと、何かが欲しい、誰かと繋がりたいなど条件だった気がします。
でも今は、穏やかな幸せというのはありのままの自分であって、誰と一緒にいても、何かが手に入らなくても、本当の意味で心の深いところで納得がいった時に自然と降ってくるものだと思います。最近は、それが自然と出来ているような気がします。
人間はネガティブなものにフォーカスすると、どんどん世界が暗く視界が狭くなりがちです。一人ひとりの頭の中に、何かと比べてこれはダメだ、正しくないとジャッジしてしまう意識が、社会的に刷り込まれて根強くあると感じます。
でも、体のつくりを考えた時に、そのままのパーフェクトなバランスで人間はそこに存在しているんです。だから問題などはなく、その自然な流れに沿っていないところに問題が発生するのだと思います。
誰もが在りのままの状態で、本当にやりたいことを愛によって実現できれば、他人を傷つけることなく、きっと皆んなが本当の意味で穏やかな幸せをもっと享受できるはずです。そんな社会に向かっていけるように、微力ながら私からもそっと背中を押すエネルギーを送る生き方をしていきたいと思っています。
新国立劇場『セビリアの理髪師』より
来年2026年5月は、新国立劇場オペラ 2025/2026シーズンの作品『ウェルテル』にも出演が決定している脇園彩さん。すでに楽譜の勉強を始めたそう。
脇園さんが出演する舞台は常に拍手喝采で、日本の観客にも愛され、昨年は話題の人物としてテレビ番組『情熱大陸』にも出演。イタリア・ミラノ在住でグローバルに活躍中の脇園さんが出演する、魔法のようなロッシーニ・オペラ体験をぜひ!
新国立劇場『セビリアの理髪師』より
舞台写真
撮影:寺司正彦
<Information>
ジョアキーノ・ロッシーニ
セビリアの理髪師
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
会場:新国立劇場 オペラパレス
公演期間:2025年5月25日~6月3日
指揮:コッラード・ロヴァーリス
演出:ヨーゼフ・E.ケップリンガー
美術・衣裳:ハイドルン・シュメルツァー
キャスト:
ローレンス・ブラウンリー
脇園 彩
ジュリオ・マストロトータロ
ロベルト・デ・カンディア
妻屋秀和
加納悦子
高橋正尚
ほか
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
公式サイト
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/ilbarbieredisiviglia/
取材エピソードの編集後記は、こちら
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
【SNS】 STARRing MAGAZINE
ジャンルレス・エンタテインメントを愉しむ。
オフィシャルインスタグラムをフォロー!