【来日インタビュー】デヴィッド・ホールバーグ(オーストラリア・バレエ団芸術監督)が、日本公演のヌレエフ版『ドン・キホーテ』、主演ダンサーについて語る!
5月末より始まるオーストラリア・バレエ団 2025年日本公演に先駆けて来日した、デヴィッド・ホールバーグ芸術監督にインタビューした。
アメリカン・バレエ・シアター、ボリショイ・バレエ団のプリンシパルを務めた世界的なバレエ界のスーパースターが、現役引退後の2021年にオーストラリア・バレエ団の芸術監督に就いたニュースは、大きな話題を呼んだ。その後、彼のリーダーシップで国際的な評価をますます高めているオーストラリア・バレエ団は、いま目が離せない注目のカンパニーだ。
インタビューの前半は日本公演のヌレエフ版『ドン・キホーテ』や主演ダンサーについて、後半は芸術の魅力について語って頂く、興味深いお話となった。
デヴィッド・ホールバーグ芸術監督が、ダンサーに求めること
オーストラリア・バレエ団(以下、TAB)のダンサーに、ホールバーグ芸術監督は何を求めますか?
芸術監督として私は、ダンサー人ひとりが持つ可能性の最大限まで求めます。安全圏ではなくてギリギリの限界まで私が引き上げる存在であることを、TABのダンサーに分かってもらいたいと思っています。バレエというのは、舞台の上で全てを出し切るという約束をしてもらわないと成立しない種類の芸術です。コミットメント(約束、忠実などの意)は、とても重要です。TABのダンサーたちには、常に最大限の力を発揮するように求めています。
日本公演は、ヌレエフ版『ドン・キホーテ』!
20世紀の伝説的ダンサーとして知られる、ルドルフ・ヌレエフ。ヌレエフ版『ドン・キホーテ』を、日本公演に選んだ理由を教えていただけますか?
ルドルフ・ヌレエフが1970年にTABの為に振付・主演し、3年後の1973年に映画になりました。私が芸術監督に就いてから迎えたバレエ団設立60周年の2023年に、その映像をもとに装置と衣裳を新たに作り直して新制作として上演したのが、ヌレエフ版『ドン・キホーテ』です。
バレエ団を象徴するプロダクションで、先程のご質問にも関連しますが、ダンサーたちがベストの力を出し切れると考えて選びました。TABによる15年ぶりの日本公演、私が芸術監督として率いるTAB、そのどちらも自信を持って今とても良い状態をお見せできると自信を持っています。
美術、衣裳も豪華な『ドン・キホーテ』。ヌレエフが望んだ表現は、どのようなものだと思いますか?
絵が描かれた背景画の前で踊るというバレエはありますが、ヌレエフは大掛かりな美術と装置でスペインの街並みにもリアルを求めました。衣裳のテクスチャも、本当に細部までこだわっています。私は彼と同じ時代に生まれてはいないので会うことはできなかったのですが、振付や美術を通して、彼のセンスの良さを感じています。
芸術監督ホールバーグが語る、主演ダンサー!
来日公演で、主演を務める3組。それぞれのダンサーの印象について、一言ずつコメントを頂ければと思います。
*出演者最新情報は、公式サイト参照
アコ・コンドウ(近藤亜香)は、初日のキトリを踊ります。彼女は、オーストラリア・バレエ学校の出身です。恐れを知らないタイプのダンサーで、きっとエキサイティングな舞台を見せてくれます。彼女とパートナーを組むチェンウ・グオも、オーストラリア・バレエ学校の出身です。テクニックがあって跳躍が美しく、空中でのポーズが素晴らしいと思います。
若い頃からプリンシパルを務めているベネディクト・ベメは、オーストラリア出身のバレリーナを象徴しているようなイメージがあります。彼女の踊りには温かみがあって、観る人を魅了します。ジョセフ・ケイリーは、テクニックが非常に安定しています。舞台でのパフォーマンスは、冷静で落ち着きがあります。
ジル・オオガイは、音楽性に溢れています。近年プリンシパルになったダンサーで、知性が感じられる踊りをします。キトリの細かいディテールまで考え尽くした上で、舞台では瞬間を生きるようなダンサーです。マーカス・モレリは、ジルと同じタイミングでプリンシパルに昇格しました。素晴らしいテクニックを持ち、荒々しい男性の魅力もあって、情熱的でエキサイティングです。
それぞれに優れているパートナーシップなので、楽しみにして頂ければと思います。
あのシルヴィ・ギエムが、日本公演でもゲストコーチとして参加!
2023年『ドン・キホーテ』新制作の際、ホールバーグさんがシルヴィ・ギエムさんをゲストコーチに招いたことが話題になりました。今回の日本公演にも参加されるそうですね。
私にとって、ルドルフ・ヌレエフ、シルヴィ・ギエムの二人とも、同じカテゴリにいる存在と感じています。舞台から醸し出される雰囲気が類まれなるものである、そしてダンサーとしても人間としても素晴らしいと感じます。
ヌレエフがシルヴィ・ギエムを抜擢してエトワールに任命し、パートナーを組んでいました。日本でも、二人で一緒に踊っています。ですからヌレエフをよく知る彼女が作品に参加して、コーチをしてくださるのはとても意味があると考えます。非常に聡明な方です。
デヴィッド・ホールバーグ芸術監督が就任してからの変化
日本公演の主要なキャストの方々は、自分自身の踊りを発見していると感じますか?
ダンサーそれぞれが『ドン・キホーテ』を何度も踊った経験があり、作品に対しての知識が豊富にあるキャストのメンバーです。それに加えて、シルヴィ・ギエムがそれぞれの特性が出るように、コーチングしてくださったと思います。ですから、ダンサーたちの性質やクオリティを出しやすくなったことが相乗効果となり、独自の役の表現の仕方に繋がっていると思います。
ホールバーグさんが芸術監督になって、TABのダンサーが一番変化した面は何でしょう。
「自信」を持つことにおいて、大きく変わったと思います。ダンサーたちにとって、私が船の錨である重りの存在となり、自信が持てるように後ろから背中を押して支え、大丈夫だと安心させています。
自らが自信を持って踊った結果、舞台上での存在感が非常に変わったと思います。
ホールバーグさんが、芸術監督になって4年。今後、どのようにTABを発展していくお考えでしょうか。
TABのお客様の層は厚くて、長年応援して頂いている方々が非常に多いんです。私たちを誇らしく思ってくださいますし、私たちにとってもお客様が誇りです。応援してくださる方々との関係性を、強固にしていくことが必要だと思っています。
また、これまでも行なってきたことですが、よりよい舞台を目指し、素晴らしいダンサーを育て、優れたパフォーマンスを見せていくことを続けていきたいと思います。今回、東京で来日公演をしたように、世界中でTABがどれだけ素晴らしいかを見せ続けることが大事だと考えています。
取材エピソードの編集後記は、こちら
<Information>
オーストラリア・バレエ団 2025年日本公演
ヌレエフ版『ドン・キホーテ』プロローグ付き全3幕
オーストラリア・バレエ団芸術監督:デヴィッド・ホールバーグ
会場:東京文化会館(上野)
公演日程/主演予定ダンサー:
*出演者最新情報は、公式サイト参照
公式サイト
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/australia/
5月30日 18:30
近藤 亜香、チェンウ・グオ
5月31日 12:30
ベネディクト・ベメ、ジョセフ・ケイリー
5月31日 18:30
ジル・オオガイ、マーカス・モレリ
6月1日 12:00
近藤 亜香、チェンウ・グオ
振付:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパに基づく)
音楽:ルドヴィク・ミンクス
編曲:ジョン・ランチベリー
衣裳デザイン:バリー・ケイ
装置デザイン:リチャード・ロバーツ(バリー・ケイデザインのオリジナル映画に基づく)
指揮:ジョナサン・ロー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
主催:公益財団法人日本舞台芸術振興会
後援:オーストラリア大使館
衣裳協力 ジョルジオ アルマーニ(参考商品)
photo by 山崎あゆみ(Ayumi Yamazaki)http://ayumiyamazaki.com/
東京を拠点に建築、旅、人物と幅広いジャンルを撮影。
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。
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