Special Interview with Sarah Lamb 『ジゼル』を踊る英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル サラ・ラムにインタビュー THE ROYAL BALLET 2026年日本公演

サラ・ラム(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)

photo Toru Hiraiwa

日本公演で『ジゼル』に出演する、英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのサラ・ラム。カンパニーを代表するスターとして世界的に高く評価される彼女に、作品『ジゼル』への向き合い方、相手役を組むプリンシパル平野亮一とのパートナーシップ、そして日本への思いについて聞いた。バレエへの深い思索が、印象に残るインタビューとなった。


東京で再び踊る『ジゼル』

“I’m so excited to perform Giselle again in Tokyo”

『ジゼル』のサラ・ラム

2018 photo: Helen Maybanks / RBO

日本公演で再び『ジゼル』を踊ることについて、現在のお気持ちをお聞かせください。

東京で再び『ジゼル』を踊ることに、とてもワクワクしています。前回日本で踊ったのは10年前なので、また東京で踊れることを本当に嬉しく思っています。


深まるジゼル役の理解

“I comprehend Giselle more as a character”

『ジゼル』のサラ・ラム

2018 photo: Helen Maybanks / RBO

キャリアの初期と現在とで、ジゼル役への理解に変化はありますか?

人間として、当然ながら私たちは日々変化しています。細胞レベルでの変化から、生きてきた年月の中で積み重ねてきた経験に至るまで、そのすべてが私たちの存在そのものに反映されています。ですから、初めてジゼルを踊った頃よりも、今の方がジゼルという人物をより深く理解できるようになったと感じています。

ジゼルの人を疑わない心は、単なる“純真さ”や未熟さではありません。信じることは、本来は誰にとっても当たり前のものだと思い込んでいる、彼女自身の見方なのです。愛する人であるアルブレヒトによってそれが打ち砕かれた時、ジゼルは打ちのめされてしまいます。完全な打撃となって、彼女の身も心も破壊するのです。


第2幕におけるバレエの芸術表現

“It is a constant effort to appear effortless”

『ジゼル』を踊るサラ・ラムと平野亮一

2026 photo: Andrej Uspenski / RBO

『ジゼル』という作品は、ご自身の芸術表現にどのような影響を与えてきましたか。

私は、それぞれの役柄で、踊り方の様式と感情を理解しながら、自分の身体を通して表現しようと常に努めています。『ジゼル』第2幕の、霊的でこの世のものではないような雰囲気を表現するのは非常に難しい挑戦だからこそ、実現できれば本当に特別なものになります。努力を感じさせないように見せることが絶え間ない努力であり、それはバレエすべてに通じる秘訣ですね!

第2幕の幽玄な世界観や、人間の“重さ”や重力を感じさせない存在感が、高く評価されています。そうした踊りの表現について、テクニカルな面で特に意識していることはありますか? また、役作りや感情表現で大切にしていることがあれば教えてください。

第2幕には、非常に難しい技術的な要素が数多くあります。アダージオに求められる静謐な踊りとアレグロに求められる力強い踊り、その両方を成立させなければなりません。これらは、リハーサルの中で非常に緻密に、そして徹底的に取り組むべきものです。なぜなら私は舞台上で、肉体と精神の両方において、その移行の「閾(イキ、しきい)」(limen)を超えていきたいと思っているからです。
(limen=「境界」や「敷居」を意味する言葉。人がある状態から別の状態へ移行する“境目”を指す)

私にとってジゼルは、愛の究極の形である「赦し」を体現する存在です。誰かを赦すということは、自分のエゴを捨て去ることであり、それは人間にとって最も難しいこと……しかし同時に、最も深く美しいことでもあります。


プリンシパル平野亮一との信頼関係

“It is a bond that is not recreated anywhere else”

『ジゼル』を踊るサラ・ラムと平野亮一

2026 photo: Andrej Uspenski / RBO

2026年2月に、本拠地ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスで、平野亮一さんと『ジゼル』を踊った印象は、いかがでしたか?

舞台に一緒に立てたことは、本当に素晴らしい経験でした。私たちはパートナーを組んで踊ることが大好きなだけではなく、お互いを励まし合える存在でもあります。舞台上では、お互いの友情と敬意を通して築かれる関係性が、観客を別世界へといざなうのだと思います。

長年にわたるお二人のパートナーシップについて、お聞かせください。

年月が経つにつれ、お互いの長所と短所、そして癖まで理解し合い、いつも笑い合っています。彼は私のからかい方が上手いし、私も彼をからかうんです。私たちは自然体でいられますし、お互いの信頼感があります。このような2人の絆は、なかなか築けるものではありません。

例えば、俳優同士なら似たような関係性を持てるのかもしれませんが、リョウと私のように長年これほど継続的に共演できる相手は稀だと思います。だからこそ、私たちは言葉を介さず、舞台上のごく些細な感覚だけで通じ合える……本当に唯一無二の関係です。


日本公演でも上演される、巨匠アシュトンの傑作『リーズの結婚』

“It is a masterpiece by Frederick Ashton”

日本で上演されるもう一つの演目、『リーズの結婚』についてお伺いします。英国ロイヤル・バレエ団のレパートリーとして親しまれている作品ですが、魅力は何でしょうか。

私が『リーズの結婚』を初めて踊ったのは、ボストン・バレエ団のソリストの頃でした。カルロス・アコスタ(現英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団芸術監督、元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)と共演し、その後まもなくプリンシパルに昇格しました。同じく全幕作品のバレエ、『ロミオとジュリエット』の後に踊った作品です。

この作品は、振付家フレデリック・アシュトンによる傑作です。実は、主要な人物の設定は、『ジゼル』とどこか呼応する部分があるように思います。少女リーズ、恋人で村の若者コラス、母親シモーヌ、そして村の“もうひとりの若者”アランが登場します。ただし、人物たちの性格や、ストーリーの展開はまったく異なります。どちらの作品も、第1幕は小さな村が舞台で、村人たちが主人公たちの人生に深く関わっています。

そして、アシュトンの天才的な振付が見事に発揮されています。身体のラインの使い方や、ポール・ド・ブラ(腕の動き)、ポール・ド・コール(上半身の動き)など、彼ならではの様式が作品の随所に息づいています。


過去を尊重し未来へ向かい、世界中を魅了するカンパニー

“It is an institution that continues to attract audiences from around the world”

2026 photo: Andrej Uspenski / RBO

英国ロイヤル・バレエ団について、どのような存在だと思いますか。

過去に敬意を払いながら、未来のアーティストを育てていくレパートリーの数々によって、世界中から観客を惹きつけ続けているカンパニーです。


東京は第二の「舞台の故郷」

“Tokyo as my second ‘onstage’ home”

日本では、ロンドンの劇場とは違う空気や反応を感じますか?

東京は、私にとって第二の「舞台の故郷」のような場所です。東京で踊るとき、私はいつでもお客様からの温かさに支えられてきました。ロンドンの観客よりも前に、日本の観客にいち早く受け入れられたように感じています。

世界バレエフェスティバルやガラ公演で踊るたびに素晴らしい経験をさせていただき、皆さんのバレエへの愛と称賛に心から感謝しています。それは私にとって、かけがえのない大切な宝物です。

 
 

サラ・ラム / Sarah Lamb / 平野亮一 / Ryoichi Hirano / 英国ロイヤル・バレエ団 / The Royal Ballet / ジゼル / Giselle / バレエ

<Information>

英国ロイヤル・バレエ団 2026年日本公演

公式サイト
https://www.nbs.or.jp/stages/2026/royalballet/index.html

 

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTYのAD/PR/SPマーケティング、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経験。幼少期よりクラシックバレエを学び、声楽は二期会会員に師事。現在は25ヶ国70都市以上を取材し、舞台・音楽のジャンルを中心に海外アーティストを含む100人以上にインタビュー。
Editor-in-Chief of STARRing MAGAZINE. Covers performing arts, culture and travel, and has interviewed more than 100 artists worldwide.

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