加藤和樹『ジャック・ザ・リッパー』インタビュー アンダーソン&ジャック2役、再演で向き合う“内面から生まれる表現”
韓国発の人気ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』が待望の再演を迎える。2021年公演に続き、加藤和樹はアンダーソン役とジャック役の2役に再び挑戦する。ロンドンの闇を象徴する切り裂き“ジャック”と、葛藤を抱えながら生きる刑事“アンダーソン”に、新たな気持ちで挑む抱負を語る。
演出家・白井晃とのエピソード、内面から生まれる声のアプローチ、再演だからこその覚悟、そして「気持ちは“新人”」と語る現在の俳優としての心境まで、話を伺った。
恐怖の象徴と人間臭さ — ジャックとアンダーソン、二つの顔
前回、2役を演じられましたが、最も意識していた違いは何でしょうか。
2役の演じ分けを、最初から決めていたわけではなかったんです。演出家の白井晃さんにアドバイスをいただきながら、一緒に作っていく感覚でした。今回の再演も、まっさらな状態で稽古に入りたいと思っています。
ジャックはセリフもほとんどなく、この作品における“闇の象徴”のような存在です。ロンドンという街の闇、その街の闇が生み出した恐怖そのものというか。誰もが畏怖するような、幻のような存在感。だから白井さんとも、「いかに人を恐怖に落とし入れる存在として立たせるか」という話は前回よくしていました。演技というより、“存在感”をどう作るかをすごく大事にしていました。
一方で、アンダーソンは、ものすごく人間臭い役です。ロンドンという街に閉じ込められているような感覚を持ちながらも、逃げ出す勇気もない。「ここで生きていくしかない」と思っている人間。彼は強がっているけれど、その奥には葛藤や苦しみがある。そういった部分をどう出すかは、本当に難しかったです。
娼婦ポリーの前でようやく本音を出せるかと思ったら、その矢先に事件が起きてしまう。悔しさや、どうにもできない感情を、今回さらにブラッシュアップできたらと思っています。
特に、難しかったシーンはありますか?
アンダーソンが事件の真相を知る場面です。ネタバレになってしまうんですけど、「人間は、愛のためにここまで残虐になれるのか」という衝撃があります。
結局、この怪事件も人間が起こしていることなんですよね。怪物ではなく、人間の感情が引き起こしている。やるせなさや怒り、気持ちの置き場をどう表現するか。その“人間味”を出す部分が、一番難しいところでした。
2役を演じることで、新たな発見はありましたか?
ジャックは、 “悪の象徴”ではありますが、それもロンドンという街が生み出してしまったものでもある。だから、アンダーソンとジャックは表裏一体なのかなと。
街の中でもがきながら生きる人もいれば、狂ってしまう人もいる。アンダーソン自身も薬に手を出しているという面では、人間の心は状況や時代によって簡単に揺らぎます。それでも、人はどんな暗い時代でも一筋の光を求めて生きていく。それはどの時代でも、どの国でも、変わらないのではないかと思います。
演劇は、ある意味“非日常”を描いているようで、実は日常の延長線上でもある。そこに改めて気づかされた作品でもありました。
再演だからこその、新たな2役の創作
再び2役を演じる、と聞いた時のお気持ちは?
同じ作品の中で性質の違う役を演じられるのは、役者として本当に贅沢なことです。苦労は2倍ですけど、楽しみも2倍なので、今回も非常に楽しみにしています。
役の切り替えについては?
僕は役が全然残らないタイプなんです(笑)。衣装を着替えて、メイクを変えたら、もう切り替わる。シャワーを浴びるとリセットされますし、どちらかの役が抜けないということもないです。
今回は、5年ぶりの待望の再演になります。改めての抱負をお聞かせください。
再演というのは、初演よりも良いものにしなければお客様も納得しないですし、作る側にとっても恐怖があるものです。同じものを作るわけではないので、初演が良かっただけでは成立しない。その先をどう乗り越えていくかが大事だと思っています。
初演のときは、演出家・白井さんも含めて、みんなでゼロから作っていった感覚がとても強くありました。再演は、ありがたいことに他の作品でもこれまで経験させていただいているのですが、今回は本当にフラットに、初演の心づもりで臨みたいと思っています。
再演物ではどうしても、「前回よかったから、今回も同じように」という意識が働きます。もちろん、「正解はこれだった」という結果はあります。でも、それをなぞるのではなく、気持ちを新しく乗せていくことが大切だと感じます。
芝居を作る中で、結果的に同じ道筋にたどり着くのであれば自然なことですが、最初からそこを目指すのではなく、その先にある新しいものにたどり着きたいと思っています。
前回の2021年はコロナ禍だったので、マスクをしたまま稽古をしました。ソーシャルディスタンスもあり、全力で稽古することが非常に難しい状況でした。マスクを外すのも劇場に入ってからだったので、その時に初めて相手の表情をしっかり見ながら芝居をする感覚がありました。今回は、より自由に稽古できるのではないかと思っています。
声は“作る”のではなく、内面から生まれる
劇中の好きなナンバーはありますか? 音楽について、いかがでしょうか。
アンダーソンの「俺はこの街が嫌いだ」は、特に好きなナンバーです。彼の感情を、すべて物語っていると思います。群衆や雨、ロンドンの薄暗い空気も象徴する前回の演出の中で、心の叫びのような感情が溢れる、アンダーソンそのものを表していて、僕自身すごく好きです。
演じる2役については、これだけ音楽の色合いが違うので、混同することはまずありません。もし近い役であれば難しかったかもしれませんが、そういう意味でも音楽に助けられている面もあります。楽曲が、キャラクターを表現してくれている部分も大きいんです。
ジャックは基本的に“ロッカー”のような存在で、そのスタイル自体が彼を象徴していると思いますし、アレンジもかなりロック寄りになっている印象があります。だから前回は、歌い方についても、あまり型にはめずに、とにかく自由に無邪気に、いろいろな声色で楽しみながら自由に表現して歌いました。
一方のアンダーソン役は、心情や状況説明を担う部分もあるので、ある意味では淡々としている。その中にどれだけ感情を込められるか、人間らしさを滲ませられるかを意識していました。
2役の声について、演じ分けの変化を考えますか?
声については、意識的に変えようとはあまり思っていません。気持ちが変われば、立ち方も変わるし、呼吸も変わる。結果として役の声が変わってきます。
白井さんも、声について細かく指導するというより、内面を作る中で自然と生まれてくるものを大事にする演出をされます。外側から先に固めると自由ではなくなってしまうけれど、内面ができていくことで表現の幅が広がり、その結果として声も自然に生まれてくる感覚です。