大貫勇輔が語る、葛飾北斎を演じるということ―『PASSION ― 北斎の描く夢 ―』創造への情熱に迫る
2026年秋、舞台『PASSION ― 北斎の描く夢 ―』で葛飾北斎を演じる大貫勇輔。俳優として数々の舞台に立ち、ダンサーとしても幅広い表現を追求してきた大貫が、今回挑むのは、絵師・葛飾北斎の生涯と情熱を、ダンスと演劇を融合させて描く作品だ。
取材時は、稽古開始を目前に控えたタイミング。すでに台本を読んだ大貫は3度涙を流したという。北斎への共感、俳優とダンサーの稀有な実力を持つからこそ挑戦できる表現、経験から得た創作への向き合い方、そして“まだ見ぬ景色”に向かう大貫勇輔に『PASSION ― 北斎の描く夢 ―』への思いを聞いた。
葛飾北斎を演じる、未知への挑戦
北斎を演じることが決まったとき、どんなことを感じましたか?
葛飾北斎という名前と、「富嶽三十六景」を描いた人ということは知っていました。ただ、そこまで深く知っていたわけではありませんでした。
自分が北斎を演じるということも、最初はなかなかイメージできませんでした。この役をやらせてもらえることへの喜びと同時に、少し不安もありました。でも、ダンスで北斎を表現するということを聞いて、とても面白そうだと思いました。
舞台上で、柚希礼音さん、KELOさんと3人で北斎の世界を表現するというのも、とても興味深い。まだ自分でも完成形がまったく見えていないからこそ、非常に楽しみです。
葛飾北斎を演じる、未知への挑戦。稽古開始が楽しみですね。
素晴らしい台本(脚本:藤井清美)を読んで、3回泣きました。
北斎の葛藤や苦しみの部分に、自分自身と重なるところを感じました。もちろん自分と北斎では生きている時代も環境もまったく違いますが、表現することに対する苦しみや、自分はこうしたい、という思いに触れ、共感できるところがありました。それと同時に、こんな作品、こんな台本に出会えるのか、この役を自分が演じさせてもらえるのか、という喜びがありました。早く創作に入りたいですね。
北斎について印象を深めるなかで、特に惹かれる部分はどこでしょうか?
実際に、北斎の展覧会に行ったこともあります。最初は「富嶽三十六景」のイメージが強かったのですが、実は数多くの絵を残していて、しかも墨一色で描いた作品もたくさんあり、表現の幅が本当に広いと知りました。
こんなことにも挑戦していたのかという発見がたくさんあって、知れば知るほど奥深いんです。「富嶽三十六景」が晩年の作品だということにも驚きました。もっと若い頃に描いたものだと思っていたからです。調べていくと、本当に奇想天外な人生だったと思います。
大貫さんは北斎の“PASSION”、 情熱や原動力をどのように捉えていますか?
とにかく好奇心が強くて、描くことが大好きだったところ。僕自身も、踊ることが本当に好きで、生きることが踊ることだった時期がありました。だから、表現することに対する北斎の強い思いに、とても共感できます。
北斎は、自分を追い込んでいくし、時には周囲の状況に追い込まれていく。でも、そこで起きた苦しみや不幸を、自分の表現のエネルギーに変えていくんですよね。そこからまた光を見つけて、描くことに向かっていきます。天才だけれど、ひとりの人間として誰しも共感できる部分があるように感じます。
情熱や愛するものがあるから、苦しみを乗り越えられる。でも、乗り越えた先にはまた新しい苦しみがある。その繰り返しの中で、ずっと自分と向き合い、芸術と向き合っている。そこが、すごく面白いと思います。
「描くこと」と「踊ること」
ご自身も、表現することによって救われてきたという感覚がありますか?
あります。僕にとっては、踊ることがそうでした。
10代から20代の頃、踊ることで自分自身が救われてきたと思います。だから北斎にとって描くことがそうだったのだとしたら、すごく理解できます。
表現をしている人間は、外から見ると華やかに見えるかもしれません。でも、その中ではいろいろな葛藤があります。自分がこうなりたいと思っていても、周りからは違うことを言われたり、自分が思っていることとは違う評価を受けたりすることもあります。
北斎は、あれだけの才能があって成功しているのに、それでも葛藤している。そういうところは、すごく人間的だと思います。
北斎との共通点を感じる一方で、違いを感じるところは?
僕は、割とポジティブなんです。もちろん苦しいこともありますが、何か苦しいことが起きたときに、「これはいつか役に立つんじゃないか」と思うところがあります。将来、役を演じるときに使えるかもしれない、と。だから、苦しい経験も含めて、自分の中にあるものを表現に使えると思うと、少し楽しみになってくることがあります。
北斎は、もっと自分の中にある痛みや苦しみ、ネガティブな思いを作品にぶつけて、そこから何かを生み出していく人だったのかなと思います。その違いはありますが、表現することによって自分を保っているという部分には共感しています。
さまざまなジャンルの踊りを経験してきたことは、俳優として人物をつくるうえで、活かされていますか?
大いに活きていると思います。以前に、ダンスを一度辞めて、俳優だけの道にしようと思った時期がありました。でも、そのときに「ダンサーにしかできないお芝居がある」と気づきました。自分の身体や、それまで培ってきたテクニック、エネルギーなどは自分の強みだと知りました。
一方で、そこに頼り切ってはいけないと思っていて、僕の肉体は強みであり、自信にも繋がっていますが、それだけで芝居をつくるわけではありません。
いろいろなジャンルを経験してきたことで、身体の使い方やリズム、重心の置き方など、言葉では説明しにくいものが自分の中に蓄積されています。それが役をつくるときにも、表れているのではないかと思います。
今回の北斎は、その身体と、これまで俳優として積み重ねてきたものを同時に出せる役です。そこから舞台で何が生まれるのか、自分でも楽しみにしています。
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