大貫勇輔が語る、葛飾北斎を演じるということ―『PASSION ― 北斎の描く夢 ―』創造への情熱に迫る
俳優とダンサー、稀有な才能でつくる表現
大貫さん自身が今回期待している、ご自身も“まだ見ぬ景色”とは?
『ハリー・ポッターと呪いの子』を、200公演以上も演じさせていただいて、後半になると台詞がかなり身体に入ってきました。
そうすると、台詞を言うことだけに集中しなくていい状態に到達しました。相手がどう呼吸しているか、今この場面で何をしたいのか、相手によって台詞の言い方がどう変わるのか。同じ役でもキャストで演じ方が違いますし、日々の自身のエネルギーによっても変化します。
台詞をどう投げかけるか、テンポをどうするか、眉毛を少し動かすとか、重心を少し変えるとか、本当に細かいことまで考えられるようになっていきました。そして、実際にそれをやってみたときに、お客さんからどう見えるのかということも考えられました。
その得た感覚を、今回の作品に持ち込んでみたいと考えています。まだ、正解はわかりません。だからこそ、自分に出来ることをやってみたい。俳優とダンサーを融合させて、北斎にとっての正解の表現を、いろいろ探してみたいんです。自身を俯瞰で見ながら決めすぎずに、皆さんと挑戦したいですね。
自分の中では、すごく楽しみなのと、ちょっと怖いのが9対1くらい。圧倒的に楽しみの方が大きいんです。
舞台上で共演する、柚希礼音さん、KELOさんに対するイメージは?
(左から)KELO、大貫勇輔、柚希礼音
柚希礼音さんは、お会いした時からずっと変わらずに、僕の中では「太陽の人」です。いつも燃え盛っている太陽のようなエネルギーで、周りの人を照らしてくれる、光の人だなと思います。
KELOさんは、独特の空気感を持っている方です。ずっとかっこいいなと思っていたダンサーで、ストリートダンサーという枠だけではなく、ひとりのアーティスト、表現者として自分の視点と世界をお持ちの印象です。ご一緒して踊ってみたいと思っていました。
3人ともまったく違う印象なので、すごく面白いと思います。本当にナイスキャスティングですね! 表現を深めるのを、楽しみにしています。
振付・演出のKAORIaliveさんをはじめ、クリエイティブチームとの創作への期待はいかがでしょうか。
今回、KAORIaliveさんと一緒なので、きっと自分でも知らなかった自分に出会えるのではないかと思っています。(共同演出の)元吉庸泰さんとは以前から知り合いで、一緒に飲んだときに「一緒にやりたいね」と話していたので、今回こうしてご一緒できるのは嬉しいです。半分以上は顔馴染みの方たちなのですが、共演したことがあるのは柚希さんだけになります。
今回は、どんなところにたどり着くのか、自分でもわかりません。だからこそ、皆さんと創作の過程そのものを楽しみたいと思っています。
横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホールは、観客と演者の距離が近い空間ですね。
劇場が大きくても、お客様の呼吸やエネルギーを感じることがあります。すごく集中して見てくださっているときは、空気が違うんです。距離が近くなれば、それをもっと強く感じると思います。今回は、お客様も一緒に体感して作っていくような、体験型の舞台になるのではないでしょうか。
「踊ることで救われた」経験を力に
北斎は新しい表現と変化を追求しました。大貫さんもダンサーから俳優へ、そして歌や映像など表現の幅を広げてきました。大きな転機になった作品を挙げるとすれば?
『ビリー・エリオット』『ハリー・ポッターと呪いの子』『メリー・ポピンズ』の経験は、大きかったです。
特に『ビリー・エリオット』のときは、男の子たちがアクロバットもタップも芝居もダンスもジャズもバレエも歌も、全部ものすごいレベルでやっていた。それなのに、ずっと練習しているんです。
そこで、自分の中に「自分はダンサーだから、今のままでいい」という気持ちがあったことに気づきました。
自分は本当に努力しているのか、と考えさせられたんです。そこから、きちんと努力しないと本当の意味で進化できない、変わっていけないと思うようになりました。それが僕にとって、俳優としての人生が本当に始まった瞬間だったと思います。
これまでの経験は、今回の作品にも大きく活きることになりそうですか?
もちろん活かせると思います。でも、自分だけで完成しようとは思っていません。
KAORIaliveさん、元吉さんをはじめ、脚本、音楽、美術のクリエイションに影響を受けて、共演の柚希さん、KELOさんに投げかけて返ってきたものを受け取って、また返していく。自分の中だけで考えて、「これが北斎だ」と決めすぎないようにしたいと思っています。
失敗を怖がらずに飛び込むことも大事だと思っています。いい意味で、自分を信じすぎない。がむしゃらにやってみたいんです。
それは、大貫さんが普段から大切にしている姿勢ですか?
作品にもよるかと思います。『マチルダ』でトランチブル校長役を演じたときは、最初にかなり明確なイメージをつくりました。一方で、『100万回生きたねこ』や『ねじまき鳥クロニクル』では、原作があっても、稽古場で生まれてくるものを大事にしていました。『チ。―地球の運動について―』では、失敗を怖がらずに、とにかく飛び込んでみました。今回も、そういう部分は大切にしたいと思っています。
まだ見えていない景色を見たい
俳優として卓越したさまざまなスキルの表現力をお持ちですが、今後はどんな俳優、表現者になっていきたいですか?
そう言っていただけることはとても嬉しいですが、自分ではまだまだだと思っています。
70歳、80歳、90歳くらいまで現役でいたいと思っています。そう考えたら、まだあと50年位もあります。そう考えると、伸びしろしかない。芝居も、やればやるほど面白くなってきました。経験を重ねることでできることも増えていくし、歌もそうです。自分にどこまでできるのかはまだわからないですが、だからこそ面白いんです。
映画ももっとやってみたいですし、シェイクスピアも、現代劇も、ロシア文学にも興味があります。大河ドラマや朝ドラ、日曜劇場のような、テレビの作品にもいつか挑戦してみたい。やりたいことは、本当にたくさんあります。
表現を続けたいと思う原動力は何でしょう?
面白い、楽しいと感じる思いが、ずっと続いているのかもしれません。
芝居でも、台詞を通して相手の心の中に入っていけたような感覚が、ときにあります。その場面の中にいる人に、言葉をちゃんと届けられたと思える瞬間が楽しいんです。
映画だったら、カメラがどこにあって、どうすれば自分が作りたい画になるのかを考えて、実際に撮ったものを見て「よっしゃ、いけてる」と思う瞬間があります(笑)。
自分の中にある表現は、外に出したくなります。そういう喜びを知ってしまったから、やめられないんだと思います。
完成したものだけではなく、その過程も大切にされていますか?
創作の現場では、出演者同士でも、スタッフとの間でも、いろいろな化学反応が起きます。それによって、どんどん変わっていきます。僕はそこが一番面白いところだと思っています。
もちろん時間には限りがあるので、いつまでも続けることはできません。でも、「完成させるために安定させる」という考え方はしたくありません。
お客さんが見るのは、最終的に完成した舞台です。でも、そこにたどり着くまでにどういう道を通ったのかも、大切だと思っています。「気づいたら、ここまで来た」と言えるようなところまで行きたいんです。
台本には力があって、ある意味では最終的にここへ連れていってくれるという山の頂上が見えています。でも、そこへどうやって登るかによって、見える景色は変わります。だから、作る過程も大事なんだと思います。
最後に、さまざまな表現に携わってきた大貫さんが、今回のダンス×演劇×音楽である「ダンスエンターテイメント演劇」に対して、どんな思いを持っていますか?
化学反応が起きて、思ってもいなかったところにたどり着く、その瞬間が自分は好きなんだと思います。自分にしかできない表現を、もっと探していきたいんです。
今回は、ダンサーとしての自分と、俳優としての自分、その両方がいるからこそできる北斎を作りたいと思っています。
怖がらずに、妥協せずに、思い切り創作したい。そして、冒険したいんです。その先にあるものを、お客様にも一緒に体験してもらえたら嬉しいです。
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大貫勇輔が語る、葛飾北斎を演じるということ
大貫勇輔 / 柚希礼音 / KELO / 葛飾北斎 / PASSION ― 北斎の描く夢 ― / 舞台 / ダンス / 演劇 / 音楽 / ダンスエンターテイメント演劇 / インタビュー
<Information>
ダンスエンターテイメント演劇『PASSION ― 北斎の描く夢 ―』
期間:2026年10月22日~11月3日
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール
出演:大貫勇輔 柚希礼音 KELO
黒川賢也 人徳真央 德市暉尚 松下広敬
脚本:藤井清美
音楽:森大輔
振付・演出:KAORIalive
共同演出:元吉庸泰
美術コンセプトデザイン:大巻伸嗣
text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE 編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。