新国立劇場バレエ団2022/2023シーズン 開場25周年記念公演『ジゼル』<新制作> 制作発表

(左から)池田理沙子、木村優里、吉田都、アラスター・マリオット、福岡雄大、速水渉悟

新国立劇場バレエ団2022/2023シーズン 開場25周年記念公演『ジゼル』<新制作>は、2022年10月21日(金)初日を迎える。本公演は、吉田都舞踊芸術監督が初めて演出を手掛ける、新国立劇場開場25周年にふさわしい記念すべき作品だ。

英国ロイヤルバレエで活躍したイギリス人振付家のアラスター・マリオットとともに、19世紀ロマンティック・バレエ不朽の名作に新しい息吹を吹き込む。

2022年10月3日、公演に先駆けて新国立劇場 オペラパレスにて制作発表が行われた。演出の吉田都舞踊芸術監督、改訂振付を手がけるアラスター・マリオットと共に、『ジゼル』主演ダンサーを務める木村優里、福岡雄大、池田理沙子、速水渉悟も登壇した。

MCの進行による、インタビュー会見内容をレポートする。

吉田都 舞踊芸術監督(演出)

もうすぐ『ジゼル』の公演が幕を開けます。吉田監督にとって、初めての演出に選んだ『ジゼル』とはどんな作品でしょうか。

「本日こうして制作発表ができることを本当に嬉しく思っています。私は、サー・ピーター(・ライト)の『ジゼル』で育ちました。若い時から『ジゼル』の主役を踊らせていただき、私にとって大切な作品です。サー・ピーターは、(バレリーナの)ガリーナ・ウラノワがオペラハウスにいらして彼女の踊る『ジゼル』を見た時にあまりの素晴らしさに、この作品自体にのめり込むようになった、と仰っていました。『ジゼル』はサー・ピーター(当時は現バーミンガム・ロイヤルバレエの芸術監督)から、一から教えていただいた作品です」

『ジゼル』の魅力とは?

「これだけ長く踊り継がれる作品は、なかなかありません。それは、現在でも共感できる部分が多く含まれている作品だからだと思います。ダンサーにとっては、踊りの展開が1幕と2幕の生と死でガラリと変わるので、踊りがいもあります。今回、アラスター(・マリオット)さんが1幕の演技にも、力を入れて教えてくださっています。1幕があるからこその2幕のジゼル、アルブレヒト、ウィリーたちのそれぞれの思いが伝わってきます。ウラノワさんがジゼルを踊るにあたって自分に求めたこととして、詩情、純潔、人間の知性、信頼、勇気と仰っていました。そういうものが入っている作品だからこそ、いまだに力強いメッセージをお客様に伝えられるのではないか、と思っています」

今回、英国ロイヤルバレエで共に活躍されたアラスター・マリオットさんが改訂振付を手がけ、新国立劇場バレエで『火の鳥』と『アラジン』を担当されたディック・バードさんが美術・衣裳を担当しています。吉田都監督に縁のある方々で結成された「チームジゼル」の雰囲気はいかがでしょう。

「打ち合わせを、だいぶ以前から始めていました。一緒にお仕事をさせていただくのは初めてなのですが、お二人とも素晴らしい才能です。私の意見も受け入れてくださり、皆んなで話し合えるのが私にはとても嬉しく、そのような雰囲気を作ってくださるお二人に感謝しています」

初演出となる吉田版『ジゼル』は、どのような点を重視しますか。

「クラシックバレエのスタイルを守り、お客様にストーリーがより伝わるような演技の方法、自然な表現を突き詰めたいと思っています。ブリティッシュ・バレエを大切にし、演劇性を重視しています。とても有難いことに、アラスターさんと助手のジョナサンさんのお二人が非常に細かくイギリスにいる間に準備をしてくださっていました。細かく書いた資料を、ご本人たちはバイブルと呼んでいます。そのしっかりした下準備に、本当に感謝しています。ストーリーの細かいところまで設定してくださっていて、ダンサーたちにここはこういう意味と毎日教えてくださり、しかも実際に見せてくださっています。ロイヤルバレエで様々な役を踊っていらっしゃったので、本当にどんな役でもできるんです」

「衣裳は時代に忠実に作られ、こだわりを持って、作り上げられています。ダンサーそれぞれがこうした方がいいのでは、と繰り返し試し、スタッフもこうした方がスムーズにいくのでは、など全員で作りあげているのを感じて、毎日わくわくしています。現在、スタジオはとても良い雰囲気で進んでいます」

アラスター・マリオット(改訂振付)

吉田都さんとは、どのような思い出がありますか。アラスターさんからみて、吉田さんはどんなダンサーでしょうか。

「実は、(吉田)都とは親戚関係にあるような役が、舞台で数々ありました。兄、弟こそやっていませんが、継母、父親、姉、ほかに彼女を結婚させる神父役も度々、務めたことがあります(笑)。彼女は本当に素晴らしく、踊りがとても洗練されていてクリーンであり、かなり早い時期からそういったものを身につけていました。それだけではなく、踊りへの姿勢、取り組み方もオープンであり、その音楽性と動きはまさにイングリッシュ・スター(イギリスのスター)と呼ぶのにふさわしいものです」

「日本の出身で、日本人のダンサーであることは知っているけれども、彼女のことを皆んなが英国のバレリーナと受け止めていました。イギリスでは、ドラマティックな物語において、バレリーナは見事に役をこなさなければいけません。最高のテクニックを持っていながらも、テクニックを超えた芸術性が全面に出る、そんな踊りをする人です。

そして、仕事を一緒にする仲間としてはとってもやりやすい方です。自分が欲しいものを、明確にわかっています。物事をオーバーにせず、きちんと自分の欲しいものを分かっていて伝えられる、仕事が一緒にやりやすい仲間です」

振付に関していかがでしょう。吉田都さんとの共同作業はどのように進んでいますか。

「非常にわくわくしました。このようなクラシックバレエの大作で振付を新たに改訂する機会というのは、そんなにあるものではありません。そのような機会を与えていただけたこと、そして吉田都さんの求めていることを具現化することは私にとっても非常に楽しみでした。彼女の求めることを実現するために、私たちはリサーチを何度も繰り返し行いました。何をどのようにしたら、実現できるのかということです。非常にやりやすかった部分は、一緒に育った同じバックグラウンドをお互いに共有しているということです。舞台や音楽においても、僕たちは同じ共通項を持っています。そのため、吉田都さんがどういうことをしたいのか、はっきりと分かりました。安心したのは、『ジゼル』は現代的な解釈もありますが吉田都さんが求めているのはエキセントリックすぎるモダンなものではない、ということです。それは、2幕のドレスについても見てとれることができますし、同じ風景を二人が求めて見つめている、ということがわかって、安心しました。今、新国立劇場ダンサーの皆んなで同じゴールに向かっています」

公演に向けて、メッセージをお願いします。

「今回の『ジゼル』は、すべてにおいて正統なイングリッシュ・スタイルを受け継ぐ作品になるでしょう。人物像それぞれが把握できるような舞台であり、この新国立劇場バレエ団ならではの作品が出来上がると感じています」

『ジゼル』主演ダンサー(木村優里、福岡雄大、池田理沙子、速水渉悟)

(左から)木村優里、福岡雄大、池田理沙子、速水渉悟

次に、舞台でジゼルとアルブレヒトを踊る4人の主演ダンサーが登壇し、それぞれの抱負を語った。

木村さんと福岡さんのお二人は以前にも『ジゼル』で主演を演じていらっしゃいますね。今回の吉田版ジゼルは、これまでとどのように違いますか?

木村優里

「今回(アラスター・)マリオットさんのご指導によって舞台全体のキャラクター一人一人の人物像が(終幕の)最後までより明確になったような気がしています。一幕の村人たちの境遇や生活感、アルブレヒトとジゼルのかけ合いも、よりナチュラルです。古典的な部分は残しつつ、日常に近づいた感じになったのかな、と感じています。雄大さん(福岡雄大)と組ませていただくのは二回目で、いつも本当に色々と教えていただいています。明確なビジョンを発信してくださり、とても感謝しています」

「ジゼルがどのように彼を愛し、赦しに至るのか。それまでの過程をいまも模索して探っている最中ですが、リハーサルを積み重ねていく中で、得られる感覚を私自身とても楽しみにしています。また、アルブレヒトの人物像によっても、ジゼルのキャラクターや魅力も変わってくると思いますので、実際の舞台でどのように見えるのか、そこは雄大さんとお話ししながら定めていきたいと考えております」

福岡雄大

「アラスターさんに目線の配り方など、本当に些細なことなのですが、舞台では効果的なことをいろいろと教えていただいています。これまでとの違いは、演劇的な要素が多いと思います。『ロメオとジュリエット』や『マノン』のように英国的であり、演劇的な要素の多いバレエという感じがします。ドラマティックなバレエを目指していると仰っていたので、最高の状態に向かえるよう、僕ら二人と他のダンサーも練習をしています」

「自分が考えるアルブレヒト像から見たジゼルというのは、やはり可憐で無邪気、ピュアな心の持ち主だと思っています。自分の想像ですけれども、いろいろなしがらみを持つアルブレヒトがジゼルに心惹かれていったのには、運命的なものを感じます。ぜひ、期待してください」

池田理沙子さん、速水渉悟さんのお二人は『ジゼル』初主演。主役以外のペザント(農民)のパ・ド・ドゥ(Peasant pas de deux)も踊られますが、リハーサルは大変ですか?

池田理沙子

「二人とも主役とペザントを並行して、毎日リハーサルに臨んでいます。ペザントのパ・ド・ドゥは、今回、テクニカルな面でもよりハードな構成になっていますが、物語が進む中で盛り上がるシーンの一つだと思うので、こちらも引き続き二人で頑張っていきたいと思います。速水さんとお互いに『ジゼル』という演目で初めての挑戦になるので、毎日二人で細かく話し合いながら確認しあって、リハーサルに挑む毎日を過ごしております」

「新シーズンが始まってから、(改訂振付の)アラスターさんや助手のジョナサンさんが来日されました。私たちダンサー全員に向けて、この物語の背景や、それぞれの役の立場、舞台上での在り方を詳しく伝えてくださいました。その中で、この『ジゼル』の物語は、愛、裏切り、復讐、赦しであると伺いました。どのように愛し愛されて、最終的に赦しに至るのか、というこの壮大な物語を速水さんと二人で作り上げていく日々です。その日によって、お互いの心と身体の感じ方も変わりますし、二人が愛しあって最後に赦しに至るまでの過程を本番まで積み上げていければと思います」

速水渉悟

「古典バレエの大切な部分は残しながら、自分なりのアルブレヒトを考えて(池田)理沙子さんとリハーサルに励んでいます。細かい点ですが、ただ見つめ合うシーンも多いんです。その見つめ合っている時に何を考えているのか、どういった仕草をするとより伝わりやすいか、そのようなことを話し合いながら、作品を作り上げている最中です。ペザントも踊りますが、キャラクターが全く違うので、ぜひどちらも観にいらしてください。(エネルギッシュに頑張っているんですね、というMCの問いに)ヘトヘトになりながら、頑張っています」

「僕も理沙子さんと同じで、毎日を全く同じには踊っていません。段取りにならないように気をつけて踊っているので、今日はこういう踊り方、別の日はまた違う風に、と感情のまま踊るようにしています。舞台に見に来てくださった方々それぞれに、役の魅力が伝わればいいなと思っています」

プリンシパルに昇格して初めての主演となる、木村優里。後半の質疑応答では、プリンシパルに就任したことへの受け止め、新国立劇場バレエ研修所出身のプリンシパルとして思うことの質問に答えた。

木村優里

「プリンシパルになって、大きく生活や気持ちの面でも特に変わるということはないのですが、引き続き、一つ一つの舞台を丁寧に誠実に積み重ねていきたい、と思っております」

「この数年間、吉田都監督のもとで学べていることを嬉しく思っています。吉田監督と話していると、自分の未熟さや課題が見えてきます。お客様への奉仕の精神、プロフェッショナルとしての姿勢について、もっと精進して参ります。物語の真髄を伝えられるようなダンサーになるのが理想なので、今回の『ジゼル』もお客様に共感していただき、物語をより深く理解していただけるような作品づくりに努めたいと思います」

「私は予科生から研修所で教えていただき、入団して、この立場まできました。(バレエ研修所の所長であった)今は亡き牧阿佐美先生が『舞台には、ダンサーのすべてがさらけ出される。だからこそ技術だけでなく内面も磨いていかなければならない』と仰っていました。それを胸に、引き続き頑張っていきたいと思います」


古典名作に、新しい息吹を吹き込み、日本から世界に発信する新国立劇場バレエの『ジゼル』。

リトアニアの「十字架の丘」に着想を得て、キリスト教と土着の文化の狭間にある世界観を表現したディック・バードの美術も大きな見どころとなる。吉田都舞踊芸術監督の初演出に、新国立劇場バレエのメインキャストのダンサーたちがどう応えて踊るのか、非常に愉しみだ。

『ジゼル』©Takuya Uchiyama

<Information>

新国立劇場バレエ団 2022/2023シーズン 新国立劇場 開場25周年記念公演
『ジゼル』<新制作>

公演期間:2022年10月21日(金)~10月30日(日)
会場:新国立劇場 オペラパレス

日程、キャストほか詳細は公式HP参照
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/giselle/

【振付】ジャン・コラリ / ジュール・ペロー/ マリウス・プティパ
【演出】吉田 都
【改訂振付】アラスター・マリオット
【音楽】アドルフ・アダン
【美術・衣裳】ディック・バード
【照明】リック・フィッシャー

キャスト
木村優里、福岡雄大、池田理沙子、速水渉悟 ほか

 

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。

 
 
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