【公開GPレポート】ミュージカル『COLOR』開幕! 浦井健治、成河、濱田めぐみ、柚希礼音が出演、2バージョン公開

素敵なオリジナル新作ミュージカルが、誕生した。人生は冒険と希望と夢に満ちている。自分だけの人生の色を奏でてみよう、舞台の役の人生を通してそう呼びかけられているような時間だった。

染色家・坪倉優介さんが自身の体験を綴ったノンフィクションの原作本『記憶喪失になったぼくが見た世界』をベースにした、2022年9月開演の新作オリジナルミュージカル『COLOR』。

交通事故で、すべての記憶を失くした“ぼく”。奇跡的に目を覚ました時には、記憶は失われ、両親のこと、友人のこと、自分自身のこと 、言葉や文字、食べる、眠るなどの感覚さえ、何もかも忘れていた。

どうして、どうして、と母に問う“ぼく”。どうして人間はご飯を食べるの、どうして夜には寝るの、どうして人は生きているの、どうして僕は生きているの。

“母“は、過去の記憶を取り戻してあげたいと必死になる一方、“ぼく”の目に映る日常は 何かもが新しく、謎と驚きに満ちている。もがきながら、苦悩もする。

事故から3カ月。大学に行けば記憶を取り戻せるかもしれない。そんな期待を込めて復学する、大学生の“ぼく”。

 “ぼく”の体験を本にしようと家族を見続けて奮闘する編集者、子ども扱いするな、と“ぼく”の将来を考えて母に言う父親、“ぼく”が久しぶりに会う友人… “ぼく”の周りに、“大切な人たち”が存在して現れる。大学に行って人と関わるようになり、周りから言われて傷ついたり、気づいたりすることもある。

そんな“ぼく”が、やがて自分の人生の色を見つけて、草木染作家になるまでを描く。

 2022 年9月4日 新国立劇場 小劇場にて、ミュージカル『COLOR』の公開ゲネプロが役替わりの2つのバージョンで行われた。出演者の四人四様ともいえる演技の感想を中心にレポートする。

舞台上には3人が登場する。「ぼく/大切な人たち」を演じるのは、浦井健治・成河(そんは)。「母」を演じるのは、濱田めぐみ・柚希礼音(*五十音順・Wキャスト)。浦井と成河は、役替わりで両方の役に出演する。

音楽・歌詞は本作が初のミュージカル作品となる植村花菜。脚本・歌詞は高橋知伽江、演出は小山ゆうな、編曲・音楽監督は木原健太郎が手がけている。

 

出演者】
ぼく: 浦井健治 母: 柚希礼音 大切な人たち: 成河

「ぼく」と「母」の関係は、お互いが衝突しても、温かい。浦井健治の「ぼく」は、事故に遭って、人間としての感覚もわからない。しかし、それでも人として存在しているよう、それは何も知らないイノセント(無垢)な真っ白な状態。次第に他者との関わりを通して、ひとりの人間が成長していく。人間の心の冷たさ、温かさを経験するけれど、人との関わりや人生は素敵だというのが役の人生を通して一緒に感じられるようだった。自分だけの色を紡いでいこうと客席に歌い語りかけるような姿が印象的だった。

柚希礼音の「母」は、明るく元気で息子思い、というのが根底に感じられる。悲しみに暮れても、本来の姿を取り戻していく強さと包容力が感じられた。柚希が演じる、母親らしい母親役を初めて見た。ほぼ同年代の浦井の母親役のはずなのに、自然と「母」がそこに居る存在感だった。「ぼく」と「母」が衝突し、母親の目から流れる“水”。感情が高まる演技は劇場で見て欲しい。

柚希礼音のインタビューはこちら 
新作オリジナルミュージカル『COLOR』に出演、柚希礼音が演じる「母」の愛

「大切な人たち」をバイプレイヤーとして鮮やかに成河が演じる。編集者から父親、友人、先生、電車の乗客…と、ほんの一瞬であらゆる役のキャラクターを客席に伝える姿は天才的だった。

 
 

【出演者】
ぼく: 成河 母: 濱田めぐみ 大切な人たち: 浦井健治

成河が演じる「ぼく」は、事故の直後は植物的ですらある。まるで植物状態という言葉を表現するかのように歌い方も棒読みで生気がない。次第に感情の色や自分から湧き出るリズムを乗せるような歌い方の変化は、成長する若者が草木を染める染色家という道を選ぶまでの人生の多彩な色を咲かせるように変化する姿に感じられた。染色を通して自然に落ちた葉も再び生命の色を美しく咲かせる、といった、人の世界だけに限らない普遍的な色の世界を感じさせてくれた。

濱田めぐみの「母」は、歌に強いドラマ性がある。息子を心配し、「ぼく」が母親を認識していなくても、その目は真っ直ぐに彼に向けられている。まるで二人以外は存在しないような、濃密な関係が感じられる。だからこそ、閉じ込められたような窮屈さを感じ外に出たい「ぼく」の反発も理解できるのである。

浦井の「大切な人たち」は、キャラクターが際立っている。「ぼく」の友人は舞台後も思い出せるくらい愉しめたし、愚痴を言う編集者を演じるときは平凡で地味な雰囲気を纏っていた。純粋なきらめきの「ぼく」や直近公演で演じたギャンブラー役、先日の「キングアーサー」製作会見の颯爽とした雰囲気が嘘のような変化ぶりで、改めて役者として、人間を演じることへの凄さも感じられた。

演奏: 木原健太郎(ピアノ) 土屋吉弘(パーカッション)

音楽や歌詞、演出などすべてのクリエイターたちの仕事も、役者と同じ存在感である。舞台上の演奏は2バージョンで共通して、ピアノは木原健太郎、パーカッションは土屋吉弘。役替わりでも違った印象に聴こえる。

「ぼく: 浦井健治 母: 柚希礼音 大切な人たち: 成河」の配役では、ドラマに寄り添うように自然に聴こえ、台詞と一体化して一緒に作品を創っているようだった。「ぼく: 成河 母: 濱田めぐみ 大切な人たち: 浦井健治」の配役では、リズムやそれぞれの楽曲の持ち味が際立ち、人生の流れを押し進めていくようだった。

 

フォトセッション/質疑応答  

前列下手から:浦井健治、成河/後列下手から:柚希礼音、植村花菜、濱田めぐみ

公開GPの昼間にはフォトセッション/質疑応答も行われ、音楽・歌詞を手がけた植村花菜も参加した。

*コメント抜粋

植村花菜
「このお話をいただいたのが、今からちょうど2年くらい前。ミュージカルの作曲は初めてなので、ワクワク、ドキドキ、この2年間は「COLOR」のことばかりを考えて暮らしてきました。初日を迎えるということで、本当に感無量です。とても楽しみにしております」

(「稽古場に参加して感じたこと」の質問に対して)
「とにかく毎日が楽しくて。こういう舞台の現場は初めてなので『うわ、こんな風にしてお芝居が出来上がっていくんや』と。クリエイター、キャストの皆さん、全員で一緒に創った作品だと思います。ミュージカルや舞台を創るって凄くクリエイティブな現場なんだなと感じました。日々、どんどん変わるんですよ。それが本当に刺激的でした」

「母」役について出演者に質問

柚希礼音
「お稽古は最初はどうしたらよいものか、と思っていましたが、この息子としっかり向き合い、目を見ていたら、だんだん母親の気持ちになれて。実際の坪倉さんのお母様のお話を伺えたことも大きく、お母様は常に『絶対何とかなる。絶対にこの子を何とかするんだ』と思って、全然大変ではなかった、と仰るんですね。きっと大変だったのに。そこを大切に『この子を絶対に世に戻すんだ』という気持ちでやりたいと思います」

濱田めぐみ 
「今回すごく難しいなと思ったのが、こちらが息子と思っていても、息子であるべき人が母親への対応をしてくれない、今まで持っていた価値観や記憶全てがまったく通じない、だけど当人であるという複雑な状況下。母親という定義で、私はこの役を通してよいのかなというのはありました。こちらが母親だと思っていても、成河くんが母親と思ってくれなければ、成立しないわけで。でも、それが現実で、母親と呼ばれているけれどもそういう状況に陥った女性の一つの生き様というように捉えるようにしています。
 やっぱり人と人が対峙するときは、理屈ではなく心と心、目と目。その時の生の感情のぶつかり合いが一番だなと思って、それが真実だと思い、思い切って舞台上では逆に創ったものを捨てて生で飛び込んでいこうかな、と思っています」

観客へのメッセージ

植村花菜
「同じ演目なのに、こんなにも違うんや、とびっくりしました。演じ方、歌い方、全てにおいて二つの世界があって、すごく両方観ていただけたらなと思っています。本当に大事なもの、生きている上で大事なものとは何だろう。タイトル『COLOR』の自分の色とは、一体何だろう。それは、みんな探していると思います。自分の色、本当の色とは、何色なんやろう。それをきっと発見できる、もしくは発見できるきっかけにこの作品がなってくれるのではないかと思っています。改めて生きていくこと、当たり前の日々、そして自分の本当の色、その一つ一つの小さな感動を感じていただける作品です。ぜひ2チーム観ていただいて、それぞれの色を受け取っていただいて、ご自分の色を見つけていただけたらと思います」

柚希礼音
「この作品をやっていて、本当に自分の色とは何だろう、と毎日考えておりましたが、とにかくがむしゃらに目の前のことを必死にやってきた先に何かが見えてきたんじゃないかな、という答えになりました。これからも探し続けるとは思うのですが、初日が開けてからお客様にもいろんなメッセージが届いたらいいなと思っています。思い切り舞台の上で演じたいと思っておりますので、どうぞ千秋楽まで舞台が続きますように。よろしくお願いいたします」

濱田めぐみ 
「お二方が仰ったように、我々キャストもスタッフも全員が、なぜかこの作品に関わると『自分って何だろう、自分は誰だろう』と、この先どうなるんだろうと思い返させるような、そして自分の求めていくべき色って何だろう、と探し出す不思議な世界になるんですね。舞台稽古をやっているときに緊張するかなと思ったのですが、だんだん世界に入り込んでいき、この劇場の中が一つの空間になる感覚です。観に来てくださった方々とスタッフの方々、そしてキャスト一同で千秋楽までの旅、自分探しの旅を、そして自分の色をみんなで探し続けられたらなと思います。明日からその旅路に出たいと思っておりますのでどうぞよろしくお願いいたします」

成河
「坪倉さんたちが経験した、そして今なお経験している30年以上の年月というものを伝えて表現する手段として、まず本がありましたよね。そのあと、テレビ番組になったり色んな形を取りましたけど、今回、初めてミュージカルで伝えるという時に、この時代に演劇がどういうメディアになりうるのかを日々考えさせられます。演劇は、こういうことを表現する、伝えることのメリットとデメリットを常に考えています。それは僕にとって大きな軸であり、大きな実験で、どういう風に届くのかが楽しみでもあり怖くもあります。お客様に自由にみてほしいなと僕は思うので、本当に率直な声をどんどん言っていただけたらより、先につながる。『COLOR』も良くなるし、僕らもより高みを目指していけます。演劇がどういうメディアなのかをお客様と一緒に探していけたらな、と思っています」

浦井健治
「本当に恵まれた時間だったな、とお稽古を含めて思っています。ようやく始まる、とウキウキしています。今、成河がいろんな意味合いを込めて話しましたが、演劇は、きっと人間の遺伝子レベルで何かを伝えていき繋がっていく、それが人間に許された知識のようなものだとしたら、何かしらそこに演劇がずっと続いている理由があると思います。それを、(原作者の)坪倉さんも感じているのかな、と思って。坪倉さんも本当にワクワクしながら稽古場にいらしてくださり、稽古の最後までいらっしゃいました。
 坪倉さんは自然災害などで倒木して、何らかの理由で伐採されてしまった木などを染め物にして人から人へと繋いでいき、残そうとしていると聞きました。そういう意味では、演劇と非常に似ているなと思います。一回一回が一期一会で、作品もそういう風に染まっていくんだな、と。
 最初はゼロ、白から毎回染まっていく、お客様と一緒にというのが演劇の醍醐味だなということを感じました。それが口コミでもいいですし、SNSでもいいですし、色んな拡散の仕方をされて、伝えていただいて、ということが贅沢で幸せだなと感じます。本当に一回一回、共に頑張っていけたらなと思っています。『COLOR』をよろしくお願いいたします」

撮影:田中亜紀


役者の色がそれぞれの個性と実力で奏でられた、二つのバージョン。観客は自由に何かを感じ、観劇の感想も広がると、作品がよりカラフルになるだろう。

<Information>

オリジナルミュージカル『COLOR』

期間:2022年9月5日(月)〜9月25日(日) 
会場:新国立劇場 小劇場
料金:S席 11,000円 (全席指定・税込)

出演 (五十音順・Wキャスト)
浦井健治・成河(ぼく/大切な人たち)、濱田めぐみ・柚希礼音(母)

*公演日により組み合わせ、出演者が異なります
*東京公演ほか、ツアー公演あり

詳細、最新情報は公式まで。
公式HP https://horipro-stage.jp/stage/color2022/
公式Twitter:https://twitter.com/NewMusicalCOLOR #ミュージカルカラー

原作:坪倉優介『記憶喪失になったぼくが見た世界』(朝日新聞出版)

音楽・歌詞:植村花菜
歌詞・脚本:高橋知伽江
演出:小山ゆうな
編曲・音楽監督:木原健太郎
振付:川崎悦子
美術:乘峯雅寛
照明:勝柴次朗
音響:山本浩一
映像:上田大樹
衣裳:半田悦子
ヘアメイク:林みゆき
ボーカルスーパーバイザー:ちあきしん
演出助手:守屋由貴/野田麻衣
舞台監督:加藤高

主催・企画制作:ホリプロ 

 

text by 鈴木陽子(Yoko Suzuki)
CS放送舞台専門局、YSL BEAUTY、カルチャー系雑誌ラグジュアリーメディアのマネージングエディターを経て、エンタテインメント・ザファースト代表・STARRing MAGAZINE編集長。25ヶ国70都市以上を取材、アーティスト100人以上にインタビュー。

 
 
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